第23話
4月になり、カズアキは二年生となった。
登校初日、初々しい新入生の姿も多く見える中、新しいクラス名簿が体育館前の大きな掲示板に張り出されいる。
結果、カズアキとタカノリは同じ一組となる。そして、ミラは二組、ユメは三組とそれぞれ別のクラスになった。
二年の女子生徒の多くは、自分のクラスを見た後、次にカズアキが何組かを見て一喜一憂しているようだった。そして男子の多くは口には出さないが、ミラとユメが何組になったかを意識している者が多い。二人は友達がいない状況だとしても、天河高校の二大美女として注目されていることに変わりないようだった――。
カズアキはどきどきしながら一組へと向かう。
すると偶然、廊下でタカノリと出会った。カズアキとタカノリはすっかり打ち解けて、今では互いに一番の友達となっていたようだ。
「よお! 今年もよろしくな」
「あ、陽木くん! 一緒でよかったよ~」
「バイトは慣れたか?」
「うん。陽木くんと一緒になることが多いから安心だし、店長も優しいし、いいバイト先紹介してもらってよかった」
「そうか、それならよかったよ」
二人はつもる話をしながら、すぐに一組に到着する。
そして扉を開けて中に入ると、カズアキに気づいた女子生徒の多くが、一斉にきゃあきゃあと駆け寄ってきた。
『よろしく~! 桜空くん!』
『また、一緒のクラスだね~』
『クラブ、どこ入るか決めた?』
次々と話しかけられ、硬い笑顔で一人一人に丁寧に答えるカズアキ。
「お前といると、ほんと自信なくすよ……」
タカノリはそう言いながら、黒板に張り出された座席表を確認し自分の席についた。
カズアキも自分の席を見つけて移動する。すると、なんと隣の席には水無月サヤカが座っていた。サヤカも同じクラスだったのだ。
「よ、よろしく、水無月さん。また同じクラスだね」
「同じといっても二週間くらいだったでしょ。よろしくお願いしますわ」
(素直に『よろしくですわ』って言えないのか!)
カオルのときならそう突っ込みを入れていたかも、と思いながら席についた――。
全員の自己紹介も終わり、初日は授業も無くすぐに終了となった。
カズアキが帰ろうと準備をしていると、担任教師の呼びかける声が聞こえる。
「ああ、そうだ。桜空と陽木……それと水無月は、帰る前にちょっと職員室の
「ミーヤのとこへ?」
カズアキとタカノリは顔を見合わせる。
――雨宮先生とは、去年赴任してきた新任の女性教師だが、カズアキはカオルとして通学していたときにもあまり話したことがない。眼鏡をかけており、幼くかわいい容姿で男子生徒には彼女のファンも多く、皆親しみを込めて『ミーヤ先生』と呼んでいる。見た目は子供みたいではあるが、元々自衛隊に勤務していたという経歴を持ち、とても教育熱心な教師としても知られている――。
なぜこの三人なのか、全く見当がつかないまま一緒に教室を出た。
三人が職員室の前に到着すると、そこは丁字路のようになっている。すると、三人とは別の方向から偶然にもミラとユメが歩いてきたところだった。
そして職員室前で五人が鉢合わせするかたちとなった。
「うっ!」
「げっ!」
思わず反射的に声を出してしまったカズアキとタカノリ。
ユメはその声に反応し、二人を睨む。
「なによ!」
「い、いや、別に……」
陽木は何とか返答したが、カズアキは、その相変わらず高圧的な態度に圧倒され固まってしまう。そして、話をかえようとミラに話しかけた。
「ほ、星川さんも。久しぶりで」
「久しぶりって、昨日会ったじゃない」
相変わらずドライに返すミラ。それにユメが驚き反応した。
「え? 二人ってそんな仲なの?」
「い、いやバイト先が一緒なんだ。陽木くんに紹介してもらって……」
「ふ~ん……。それで、あなたたち何してんの?」
「それが俺たち三人、ミーヤに呼び出されてさぁ……」
「あれ? 陽木たちもミーヤに?」
「え? 私もだけど」
なんと、ユメとミラもミーヤに呼び出されていたようだ。
五人は、呼ばれた理由が全くわからないまま、不安な様子で職員室に入る。
すると、ミーヤが見つけてすぐに声をかけてきた。
「ああ、来ましたね。あれ? みなさんご一緒ですか? それは手間が省けて丁度よかったです。それじゃあ、こちらに来てください」
言われるがまま奥に進み、五人は椅子に座る彼女の前に横一列に並ぶ。
ミーヤは同じ高校生といってもわからないような容姿をしており、学生服でなければミラの方がお姉さんに見えるかもしれない。カズアキがそんなことを考えていると、彼女は険しい顔をして、ずれた眼鏡を直しながら話し始めた。
「みなさん、どうしてここに呼ばれたのか、わかりますか?」
五人は互いに顔を見合わせ茫然としている。そいて最初にタカノリが口を開く。
「全くわかりません」
「花月さんは?」
「え、私?! えっと、すいません。わかりません」
「みんなそうなの? この学校のルールが今年から変わったのは理解してますか?」
それを聞いて、カズアキは終業式の直前に担任が言っていたことを思い出した。
「クラブか……」
カズアキの呟きに先生が反応する。
「そう! クラブです。ぶ・か・つ!」
五人が一斉に目を細め『あ~そのことか』という表情をした。
この天河高校は、今年から全生徒がクラブ活動必須となったのだ。それもあってか、カズアキは多くの運動部に勧誘を受け続けていたようだ。
「一年生は別として、二年と三年でどこのクラブにも入っていいないのは、あなた達五名だけです! 私は4月からこの件の担当になったんですけど、五人もいるとわかり驚きました。転入してきたばかりの桜空くんは仕方ないとして、他の四名はもっと早くから聞いていたはずです。早くどこに入るのか決めないと」
それを聞いて全員が険しい顔をする。
「ミーヤ先生。俺、実はすでに帰宅部で――」
「そういう冗談、先生は笑いませんよ」
タカノリはあっさり撃沈する。
「で、でもですね。正直なところ勉強が結構大変というか、バイトもありますし」
タカノリは諦めず、自身が学年一位の学力であることをからめてうまく逃げようとする。
「バイトやクラブ活動しながらでも志望する大学に行った人を先生はたくさん知ってますよ。それと、我が校の校訓は『文武両道』です!」
タカノリは、ぐうの音も出なくなった。
「いいですか。皆さん一週間猶予を与えますので、それまでに決めてください」
五人はうなだれながら職員室を出る。
そして、誰が言うでもなく全員一緒に中庭に出て相談を始めたのだった――。
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