第20話

 勇気を出してタカノリに思いを語ったカズアキだったが、その後の授業も教科書は見せてもらう必要がある。ユメの隣の席に移動してもよかったが、それも勇気のいることで、すぐにはできなかった。

タカノリはこの後何かしてくるかと思ったが、意外にも何も言わず黙って教科書を見せてくれるのだった。しかし、二人に会話は一切なかった――。


 そのまま時間は過ぎ、全ての授業が無事終わる。

 すると、さっそく何名かのクラスメイトがカズアキのところにやってきた。

『ねぇねぇ、桜空くん! 帰りどっか行こうよ!』

『カラオケは?』

 すると、タカノリがそれを止めた。

「わりぃわりぃ! この後の桜空の予定は俺が予約済なんだ。バイト先紹介しようってことになってさ。早い者勝ちってことで、すまん!」

 生徒達は残念そうに諦めて散っていく。しかし、そんな約束していないカズアキはタカノリの行動が理解できなかった。

「あの、陽木くん……?」

「わりぃな。ちょっと話があるから付き合ってくれないか。すぐ済むから」

 鞄を持って教室から出て行くタカノリ。カズアキも黙って後をついていく。

 その二人の行動を、ミラとユメは目で追っていた――。



 タカノリは校舎裏にカズアキを連れていく。そこは人目に付きにくく、生徒達の間では、たまに愛の告白や喧嘩、いじめなどがある場所で知られていた。

カズアキは通学初日から起こった事態に、なんてことだと落ち込みながらタカノリについていくのだった。

(これって、多分殴られるんだよな……。今までぼっちだったけど、人に殴られたことはあんまりなかったな。怖いけど覚悟を決めて、とっとと殴られて終わらせよう……)

 すると、タカノリが足を止め、カズアキの方へ振り向いた。


 ――その二人から少し離れた校舎の陰では、ミラが隠れて様子をうかがっていた。

二人が教室から出て行くのを見て、後をつけてきたのだ。

 喧嘩になったらどうしようかと考えているとき、後ろから声をかけられる。


「あんた、何してんのよ」


突然の声に驚き飛び上がりそうになるミラ。振り向くとそこにはユメが立っていた。

「驚かさないでよ。花月さん」

「なに? 覗き趣味?」

「あなたこそ、こんなところに何しに来たのよ」

「わ、私はちょっと人を探してて……」

「あなたが探しているのは彼らじゃないの?」

 ミラは人差し指を口にあてて『静かに』というポーズをしながら、校舎裏を見るように合図する。そしてユメとミラは縦に重なるよう顔を出し、校舎裏を覗き込んだ。

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