第17話
「みんな席に着け~。突然だが今日は転入生を紹介する」
『え? 転入生?』
『この時期に?』
『あと二週間で三学期終わりだぞ』
『かわいい子だったらいいのに~』
生徒達がざわざわと騒ぎ出す中、一人の青年が扉の向こうで待っている。
もちろんそれは、カオルの生まれ変わりであるカズアキであった。
(よし! 今日から新しい人生がスタートするんだ! こういうのは最初が肝心! 元気に爽やかに印象よく……)
カズアキはふうっと深呼吸してから扉を開けた。
そして教室に入った瞬間、カズアキを見た女子生徒が大騒ぎとなる。
『きゃぁぁぁぁぁ!』
『なにあの人、超々イケてる!』
『モデルさんじゃない?!』
隣のクラスの教師が何事かと様子を見に来るほどの騒ぎとなった。男子生徒は、転校生がイケメン男子とわかり、冷ややかな目で見ている――。
「それじゃあ、自己紹介してくれるかな」
「はい」
カズアキは正面を向いてクラスメイトの顔を見た。
(うぅ……! み、みんながこっちを見てる。なんだこれ、めちゃ緊張する! 転校生ってこんなに大変なんだ! それも同じ高校に戻ってくるなんて!)
カズアキは、なかなか言葉が出てこない。その様子を不思議そうに見ている正面の女子生徒二人に目がいった。それは、ミラとユメであった。
(しかも、なんで同じクラスなんだ!)
「どうした?」
「あ、すいません。えっと……僕は桜空カズアキといいます。桜の空と書いてオウゾラです。父は日本人で母はオーストリア人ですが、僕は日本育ちの日本人ですので日本語しか話せません。こんな時期に転校してきて、すぐにクラス替えとなってしまいますが、よろしくお願いします……」
カズアキは家で何度も練習した挨拶をなんとか終了させ、深く頭をさげた。
(やっぱりなんかつまらない挨拶だったかな。最初の一歩失敗したか……)
すると、カズアキの不安をよそに盛大な拍手が起こった。
『よろしくね~!』
『お母さん外人ってかっこいい!』
『オウゾラって素敵な名前~』
(え?! これがイケメンパワー?)
カオルのときと異なる周りの温かい反応に戸惑うが、悪い気はしなかった。
「それじゃ、席をどこにするかな。前の方の席と一番後ろが空いてるが、どっちがいい?」
「僕は目が悪いので、できれば前の方がいいです」
「それじゃあ、花月と星川の間だな」
「え? それって――」
『それって僕の席』と思わず言いそうになったカズアキ。しかしその言葉を言い切る前に、ユメがバンと机を叩きながら席を立った。
「先生、ここはカオルの席です!」
騒がしかった教室が一瞬で静かになり、険悪なムードとなった。
『なに? ユメって満島のこといじめてなかった?』
『なんだ、あいつ全然態度違うじゃん』
『罪滅ぼしのつもりか?』
生徒達から囁かれる心無い言葉が耳に入り、カズアキは焦ってフォローする。
「あ、あの先生。僕は眼鏡が家にあるので後ろの席でも大丈夫です……」
本当は眼鏡など持っていなかったが、今はこう言うしかなかった。
「そ、そうか……。それじゃあ、あの窓側の一番後ろでな」
それを聞いて、ユメはぶすっとした顔で何も言わずに席についた。
ユメの隣の席――元々カオルが座っていた席の上には、水を入れた小さなガラスの器が置いてあり、中には綺麗な花びらが浮いていた。
(誰が置いてくれたんだろう……)
そう思いながら移動している途中、窓際の席にはサヤカが座っている。しかし窓の外を見ており、カズアキに全く興味がない様子だ。
指定された一番後ろの窓側の席に移動すると、偶然にも隣の席はタカノリだった。
「よろしく!」
「あ、よろしく……」
(陽木くんってこんなに元気な挨拶するんだな……)
驚いていると、タカノリだけでなく他の周りの生徒達も、皆が笑顔で気軽に挨拶してくる。
カオルのときには見ることのできなかった光景がそこにあった――。
「それじゃあ、陽木。お前隣の席だから今日は教科書見せてやってくれ。それと、休み時間とかに学校をいろいろ案内してやってくれるか」
「ほ~い」
タカノリは返事した後で、机を横にずらして移動してきた。
(陽木くんがこんな近くに。それに学校を案内? 緊張するなぁ~)
不安な中、一限目がスタートした。
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