第14話

 葬儀が終わり、皆が帰宅する中、ユメはミラの姿を探していた。

「やっぱり来てない……」

 そう呟いて帰ろうとしたとき、会館を出た門の外で制服を着たミラの姿が見えた。

 生徒達が会館から出てきたのを見て、会館に入らずに帰ろうとしているようだ。

 それを見て、ユメはすぐに走り出し追いかけ始めた。

門の外まで出ると、少し先の角を曲がるミラの姿が見える。雪の中、走ってミラを追うが、積もった雪が邪魔して思うように走れない。

どうして追いかけているのか、会って何を言えばいいのか……。自分の頭の中を整理できていないユメであったが、身体は自然とミラを追っていた――。


五分ほど走ってやっとミラの背中に追い付く。

そして後ろからミラの手首をぐっとつかんだ。

 突然のことに、驚いて振り向くミラ。すると、目からは涙がこぼれている。

 それを見て、ユメも最初の言葉に詰まった。

 しばらく言葉がないまま、見つめ合う二人。

ユメは時間をかけて呼吸を整え、ミラをつかんでいた手を離した――。


「葬儀には出ないの?」

「ええ……入口で手を合わせたわ」

「ちゃんと、焼香しないと。戻ろうよ。私も一緒に行くから」

「ありがとう……。でも、私は行けないわ」

「……どうして?」

「彼が亡くなったのは……私が原因だから……」

「あなたが原因?」

「そう……」

「どういうこと?」

「バイトから一緒に帰っているとき、車にはねられたの」

「あなたをかばったってこと?」

「違うけど……。結果的には同じことかも……」

「ちょっと、よくわからないんだけど……」

「彼は私を送ってくれたの。だから、いつも彼が帰るのとは違う道だったのよ。私を送ってくれたばっかりに、事故に会ってしまった。だから――」


「カオルは、あなたに好きって言えたのかしら!」


 突然、二人の後ろから声がする。

そこには息を切らしたサヤカが立っていた。

 サヤカもユメと同様、ミラを探して追ってきていたのだった――。


「水無月……さん?」

「カオルが死んだ日の前日、彼はあなたに告白するって言ってたわ」

「カオルが、星川さんに……?」

 ユメはカオルの気持ちを知って茫然としている。

「カオルは死ぬ前に、あなたに想いを伝えることはできたのかしら? あなた達二人の間のことだけれど、どうしてもそれを聞きたくて……」

 ミラはうつむいて胸に手をあてている。

「彼は想いを伝えてくれたわ……」

 サヤカはふうっ大きく深呼吸し、そして、涙をこぼす。

「そう。それを聞いて安心しましたわ。でも、やっぱり花月さんの言う通り、あなたは葬儀に出るべきじゃないかしら。カオルも喜ぶでしょう」

 ミラはそれを聞いて、拳を強く握りしめた。


「彼は、私が行っても喜ばないわ!」


 ミラの言葉に、ユメとサヤカは驚いている。

「ど、どうしてかしら?」

「彼は私を……私を憎んでいるはずよ」

「彼が、あなたを憎むですって?」

「そう……。彼は想いを伝えてくれた。でも私はその想いに答えることができなかった。そればかりか、私のせいで命を落とした! 私と出会わなければ! 私のことを好きにならなければ――」


《パンッ》


 冷たい空気に乾いた音が響く。

 ユメがミラの顔を叩いたのだ。

 

「カオルがあなたを憎むなんてこと絶対にない! そんなこと言うな! カオルのことを汚さないで!」

「あなたは……あなたは、そんなこと言う資格あるの?」

「なんですって?」

「あなたは、彼をずっと追い詰めていたじゃない!」


《パンッ》


 ミラもユメの顔を叩いた。


「ちょ、ちょっと二人とも!」

 サヤカが止めようとするが、二人は止まらなくなった。


「私はカオルを変えようとしてたのよ! 昔の彼はあんなんじゃなかった! 昔のカオルを知らないくせに!」

「それが彼を苦しませているとわからなかったの?! 彼は変わる必要なんてなかった! 私はそのまま彼が好きだったわ!」

「あなた……やっぱりカオルが好きだったの? なのに、どうして想いに答えてあげなかったのよ!」

「そんなの、あなたに関係ない!」

 二人は取っ組み合いの喧嘩になった。

雪の上に倒れこむ二人。


「もうやめて! カオルが悲しむわ!」


 サヤカが叫んだ。

 その声を聞いて、二人は喧嘩をやめた。

そして小さい声でユメが呟く。


「もう、カオルはいないわ……」


その後、三人は何も言わないまま交差点をばらばらの方向へ歩いていった――。

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