第9話
学校が休みの土曜日。カオルはバイトでミラと同じシフトになっていた。そして、告白するなら今日かもと意気込んでバイトへと向かったのだった――。
(今日はバイトの時間が長く感じるな……)
カオルは、客がいない店内の掃除をしながらやきもきしていた。しかし、今日も相変わらずミラに笑顔は無く、二人が会話することもない。本当に告白していいのだろうかと、カオルは時間が経つにつれ不安になってきていた。
そのとき――入口の自動ドアが開き、見た目三十歳くらいであろう綺麗な女性が入ってきた。顔立ちがはっきりしており、ミラと同じように金に近い茶髪で、顔立ちは欧米との混血のように見える。
ミラは綺麗なお客様が来店したと顔を赤くして見とれているが、カオルはその女性を見て顔面蒼白になっている。
「いらっしゃいませー」
ミラがメニューを前に出すが、その女性はそわそわと誰かを探し始めた。そして奥でうつむいているカオルを見つけたかと思うと、笑顔で大きく手を降り出した。
「やっぱりここだったのねぇ。カオルちゃ~ん!」
ミラは驚いてカオルを見る。すると、カオルは顔を赤くながら受付まで足早に来たかと思うと、その客に小声で注意した。
「バイト先には来ないでって言ったでしょ!」
「あの……満島くんこちらは……」
「いつも息子がお世話になっております。カオルの母です。フレイアと申します~」
「お、お母様……!」
ミラは突然のことに目を丸くしている。
「どうして、この店ってわかったの?!」
「この前、家の近くでユメちゃんに偶然会ってねぇ。あなたがバイト先を教えないから、ユメちゃんに聞いちゃった」
「別に店に来る必要ないじゃないか!」
「やぁねぇ、この子ったら恥ずかしがって! あ、そうそう店長さんはいらっしゃる? ご挨拶しないと」
「いえ、今はおりませんが……」
「あら、それは残念。じゃあ、こちらのお菓子、つまらないものですけど皆さんで食べてね」
そう言って、フレイアは手に持っていたら紙袋をミラに渡した。
「あらあら! よく見るとこの方も御綺麗ね~。ユメちゃんといい、この方といい、あなたの周りにはなぜか美人さんばかりなのね~」
「もういいから、注文は?!」
「それじゃあ、この綺麗なお嬢さんのお勧めにしようかしら。何かお願いできます?」
「は、はい……。それではAセットにいたします」
カオルは商品の準備のため、奥に入っていき、受付にはミラとフレイアの二人となった。
「あの……失礼ですが、お母様はもしかして外国の方ですか?」
「いえいえ、私は日本育ちの日本人ですけど、母がオーストリア人なんですよ」
「そうですか。私は母がイギリスで……。星川ミラといいます」
「あら、そうなの~。でもほんと御綺麗な方ね~。失礼ですけど、カオルとは同じくらいのお歳かしら」
「はい。同じクラスなんです」
「あら、そう! いつもお世話になって~」
そう言った後、フレイアは突然何かが気になり、黙ってミラの目をじっと見た。それを見て、ミラも少し緊張する。そしてフレイアは財布からお金を出しながら質問する。
「あの……星川さんって……」
「はい……」
「アトリアさんって名前のお知り合い、いるかしら?」
フレイアは、その名前を聞いたミラの表情をじっと見た。ミラは、ゆっくりと間を取った後で冷静に答える。
「いえ……存じませんが」
その答えを聞いて、フレイアは微笑みながら軽く頭を下げた。
「そうですか……ごめんなさいね。ちょっと勘違いで」
「いえ……」
すると、カオルが後ろから急いで商品を持ってくる。
「はい! できたよ!」
「はいはい。邪魔者は帰りますよ~。それでは星川さん、息子のことよろしくお願いします」
「こちらこそ。お会いできてうれしかったです」
そしてフレイアは手を振りながら、店から出ていった――。
「ごめん、星川さん。何か言われなかった?」
「いえ、何も……。若くて素敵なお母さんね」
「そうかなぁ。いつまでも子供みたいな母親でね。家でも一人できゃっきゃ騒いでるし」
「満島くんって、私と同じで外国の血が入ってたのね。全くわからなかったわ」
「それよく言われるんだ。母に会った人には百パーセント言われる……。悪い意味でね」
(久しぶりに星川さんと会話している! 母さん、急に来て最悪だったけど、結果的にグッジョブだよ……)
「満島くん、どうかしたの?」
「い、いや、なんでもないよ……。あ、もうすぐ仕事終わりだね」
「あら、そうね」
「あの、今日、一緒に――」
途中までいい感じで話ができていたが、ここでミラと目が合ってしまい、カオルは突然顔を赤くして何も言えなくなってしまった。ミラは何かを察して少し微笑んでいる。
「今日、一緒に何?」
「あ、えっとぉ。その……」
「たぶんだけど~、『一緒に』の後に続く言葉は……『帰ろうよ』かな?」
うつむいた顔を下から除きこむミラ。その可愛さにカオルは更に顔が熱くなった。
「途中まで一緒に……帰りませんか? ご迷惑でなければ」
「全然迷惑じゃないわよ。ありがとう」
ミラはそう言って微笑んだ。
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