第6話

 いつものように客が入っていないファーストフード店。

 カオルは、バイトのシフトで久々にミラと一緒になった。しかし相も変わらず勇気が出ず、ミラに話かけることはできない。

 遅れてタカノリもバイトに入り、三人で勤務するシフトとなったが、三人は暇を持て余し、ピカピカの店内を更に拭き掃除している。

すると、そんな平和な店内に突然嵐の予感が。

ユメが一人で入店してきたのである――。


「ええ? ユメ?!」

 すぐに気づいたカオルが反応する。あまりの驚きに思わず名前で呼んでしまった。

すると、ユメはカウンター前へ向かいながらカオルを睨んでいる。

「あんたに『ユメ』って呼ばれる覚えはないんだけど!」

「あ、ごめん……花月さん……」

「あんた、ここでバイトしてたんだぁ。陽木もいるのね」

「よぉ」

 タカノリは軽く手をあげ挨拶する。

「それで……。誰がオーダーとってくれるの?」

 するとミラが無表情でユメの前に立ち、メニューを目の前に置いた。

「いらっしゃいませ……」

「なんだ、星川さんもこの店でバイトしてたんだぁ」

 ユメは嘘っぽい笑顔で話かけるが、ミラは真顔のままマニュアル通りの応対を続ける。

「店内でお召し上がりですか」

「持ち帰りでいいわ。そうねぇ……どれにしよっかなぁ」

 ユメが注文を終わらせ、タカノリとカオルで手際よく商品を準備しユメに渡す。

「じゃあ、今日は帰るわね」

(わざわざこんな遠い店まで何しに来たんだ……)

 カオルが疑問に思う中、ユメは商品を受け取り入口に向かって歩きだした。

カオルが何事もなかったとほっとしたとき――珍しくタカノリがカオルに話かけてきた。


「あのさぁ、お前って水無月とつきあってんの?」


「ええ?!」

 突然の爆撃に焦るカオル。二人はカウンターから少し離れたところで話しているが、明らかにミラとユメに聞こえている声の大きさだった。

 ユメは自動ドアの前でピタリと足を止め、わざとらしくスマホを出して何か操作し始めた。ミラはカウンターの掃除を始めているが、同じところを拭き続けている。二人して、カオルの反応が気になり、聞き耳を立てているようにみえた――。


「な、なんでそんなこと急に……」

「だって、お前と水無月、屋上でいっつも一緒に昼食べてるって噂だぜ。別に……隠すことねぇんじゃねぇの」

「違うよ……。水無月さんとはこの前、友達になったんだ……」

「ふ~ん。まぁ、どうでもいいけど。水無月って結構隠れファンが多いからなぁ。俺もちょっと狙ってたんだけどなぁ」

「そ、それは水無月さん喜ぶんじゃないかな……。僕は付き合ってないから、そんなの全然いいと思うけど……」

「何言ってんだよ。お前がツバつけた女に誰がアタックすんだよ。そんなカッコわりぃことできるかよ」

「僕がツバを……!」

 カオルは自分が原因で大切な友達が悪く言われていることにショックを受けた。しかし拳を強く握ったまま何も言い返すことができない。

 すると、ミラがタカノリを睨みながら一直線に向かって行く。それに気づいたタカノリは硬直し一歩も動くことができない。

 そしてミラがタカノリに向かって何かを言おうとしたそのとき――。

 横から突然ユメが現れ、カオルの胸倉を両手でつかんだ。


「なんで、そこで何も言い返さないのよ!!」


「え……僕……?」

 タカノリではなくカオルに詰め寄るユメ。真っ赤な顔でカオルを責めるユメを見て、ミラとタカノリは唖然としている。

「友達のこと言われてるんでしょう?! あんた平気なの?! 悔しくないの?! いつもどうしてそうなのよ!! これだけ言われて、何か言い返してみなさいよ! いつからそんな男になっちゃったのよ、カオル!!」

 その言葉を聞いて、皆がユメの想いを理解した。

普段から、カオルに嫌味のような注意ばかりしていたユメ。周りはカオルが嫌いでバカにしてそういう態度をとっていると思っていた。しかし実際は、カオルに変わって欲しいと思っていたのだろう。

 タカノリがそっと、ユメの手を掴んでカオルから離した。

「俺が悪かったよ……。ごめん、撤回するよ。だから落ち着いて」

「悪いのは、こいつよ!」

 そう言って、ユメはカオルの胸をグーで軽く叩き、入り口を出ていく。

 カオルは外に出たユメを追いかけ後ろから声をかけた。

「ユメ!」

「何してるの……バイト中でしょ。それに……もう、私に話かけないで」

 そう言って、ユメは人ごみの中に消えていった。

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