第5話

 それから数日経ったある日のこと。

「友達とそうでない人との違いって何かしら」

 サヤカは昼食のサンドイッチを食べながらカオルに尋ねた。

「友達がずっといなかった僕に聞かないでよ。あ、ごめん、水無月さんもいなかったんだ」

「失礼ね! 私は中学まではおりましたわ」

「じゃあ、水無月さんの方が詳しいんじゃないかな。でもそれって、その二択だけ?」

「なるほど、わかります。『恋人』になる場合もあるということね」

「そうだね。恋人になると友達じゃなくなっちゃうからね。ということは、二人の関係には、恋人、友達、その他の三つがあるということだね」

「それなら、私たちはずっとお友達でいられるように『恋愛禁止』のルールを設けないと駄目かしら」

 カオルは食べていたご飯をぶっと噴き出した。

「汚いですわ!」

「改めてそんなこと言わないでよ! なんかちょっと恥ずかしいよ」

「あら、私はあなたをこれからもず~っと恋愛対象として見ない自信がありましてよ。でもあなたがどうなるか心配だから、ちゃんと決めておかないと」

「なんだよ、それ! そっちが恋愛対象として見ないなら、恋人になること自体ありえないじゃないか……。それなら『お互いを好きになるの禁止』でいいでしょ」

「なるほど、それ採用しましょう」

「でも、こういう話していること自体が友達ってことなんじゃないかな。友達じゃない人とはこんな話しないでしょ」

「そうよね。でも友達同士で『友達って何』って話してることがキモいですわね……」

「なんだよそれ! 自分が言い出したんじゃないか」

「あぁ、そうでしたわ」

 二人の昼休みの会話には、見たテレビ番組の話とか、好きなミュージシャンの話とかは一切なく、いつもこの調子である。しかし二人はこの時間を居心地よく過ごしているようだった――。


「それじゃあ……二人が友達って、どうやって証明するのかしら」

「この話まだ続くんだ……なんか水無月さんって、『友達』をとても分析したいんだね」

「だって……例えば誰かに『満島くんってあなたの友達なの? 本当? その証拠は?』って聞かれりしたら何て答えたらいいのかしら」

「そんなの僕がその人に『そうだよ、友達だよ』って言えばいいんでしょ?」

「それはそうですけど、逆の場合、私はそう言える自信がないわ……」

「なんでさ!」

「いや、だって……そんなの女子が言うのは恥ずかしいでしょう。そんなこと聞かれるまでもなく、友達だって言える証ってあるのかしら」

「そうだなぁ。あだ名、とかかな?」

「なるほど! ニックネームですわね! 満島くん、今日はめずらしく冴えてる……。それでは、お互いのニックネームを決めましょうか」

「じゃあ、僕の決めてよ」

「そうねぇ。『カオルン』かしら……」

「そ、それって、友達の域超えてるんじゃないですか?! 『カオル』でいいよ!」

「そうねぇ。それじゃ、私も『サヤカ』で結構ですわ」

「わかったよ。でも『試しに一回呼んでみましょう』とかそういうノリはいらないから」

「あら、どうしてカオル」

「……今、うまいこと呼んだねぇ。でも顔が真っ赤だよ、サヤカ」

「ほほほ! そういうカオルも耳が真っ赤でしてよ! 早く慣れなさい!」


 二人でバカ話をしていると予鈴が鳴った。二人は大慌てで弁当を片付け教室に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る