コード
「……は!」
「てんでダメだな。魔素の使い方がなっとらん」
「はー。だって、難しいんだもん!」
『コード』それは超能力の類だ。
トビから聞いた話だとこうだ。
「いいか? コードはまず大きく分けて2種類。
『ライジングコード』、『シャドウコード』だ。ワシらが使えるのは前者……『ライジングコード』だな」
そのライジングコードを使うための修行中だ。
コードを使う為には、全身に電子回路のような模様ラットを浮かび上がらせる必要がある。
方法としては単純。大気に散布している自然のエネルギー『魔素』を吸収・制御し、己の形に合わせ変形させる。それだけだ。
それだけだ。誰でもできる。
それだけなのに……。
「む……ずっ!」
ラットが浮かび上がらない。
魔素は掴んでいる。感覚もある。
「何故そう出来んのだ。感覚が鈍いのか?」
「知る……か!」
煽りに怒鳴り返す。
その一瞬、右手にラットが浮かんだ。
その色は、緑。エメラルドを思わせる、綺麗な緑色だ。
「!」
目を通して伝わるその力。
台風のように渦巻き荒れ狂う魔素に、僕は無意識のうちで一歩引いていた。自分の力に驚いたのだ。
「出来た……?」
すん、とラットは瞬く間に消え去った。
だが、薄っすらとその跡は腕に刻まれていた。
一連の動作を見たトビが、口を開く。
「うむ。粗は多いが、十分ラットと呼べるだろう」
ただ、ここからの道のりが長い。
「へへ。やっぱ、才能あったんだよボク!」
ラットはコードを使うための基礎だ。ここからコードとして力を発揮するためには、更に訓練しなければならない。
それも、ラットを造るよりも比べ物にならない時間を掛けて。
「まぁまぁだ」
そう言うと、彼は見せつけるかのように右腕の袖をめくった。そして、
「!?」
一瞬のうちに、ラットが浮かび上がった。それも、桁違いの複雑さ。夥しい数のラットがバラバラのように見えて、どれもが洗練され、整列されている。
芸術の域に達していた。
「改めて見直せ。これがオマエの目指す物だ。これが未来のオマエだ。この先に行くのなら、相応の覚悟を持ち直せ。今ならまだ引き返せる」
アレに比べれば、今のボクはちっぽけだ。
高層ビルの目の前に転がるコンクリートの破片。今までの努力が霞んで見えた。
「ボクの半月が……」
「なに、落ち込む事はない。この歳でまずラットは習わない。マトモに制御できるのは、十五ぐらいからだ。それを5年も先にやっているんだ。誇れ!」
この半月間、ただひたすらにラットを作り続けた。雨の日も風邪の日も関係ない。
不眠不休で、トビは付き合ってくれた。
「ところでさ、祭りの事なんだけど……」
「ああ、良いぞ」
「へ?」
あっさりと了承してくれた。
何か裏があるかと勘ぐりたくなるぐらいに。
「ワシも若い頃出てたしな。気持ちは分かる」
(気持ちは分かるって言うか……無理やり出されるんだけど)
それを言ったらダメな気がして、喉の奥に留めた。サルに何されるか解ったもんじゃない。
「ワシも見るから、暴れてこい」
「え、見るの?」
「そりゃ保護者だし、弟子の闘いを見たいものだし、何より……」
「何より?」
「……まぁ、今度話そう」
「何だよ」
はぐらかされてしまった。そう言われると興味が湧くものだ。深追いはしないけど。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん!」
夜も終わりを迎える。
日を迎えるよりも早く、サーラが起きるよりも早く、ボク達はそれぞれの部屋に戻った。
(明日……いや、今日か。今日は確か……)
ベッドの上で1人、ボクは考える。
ラットの興奮もあり、寝れなかった。
アドレナリンがどうのこうのってやつだ。
(ああ、サルとウィザーと一緒に、祠に行くんだ)
村の外れにある小さな祠。
山上に存在するそこは、誰も近づかないスポットだ。村の人でも、そこを知っている人は極小数。
トビも一度たりとも言及してないし、ソルベさんですら、そこについて話さない。
(肝試し……楽しみだなぁ)
そう思って、瞼を閉じる。
──今思えば、この行動は非常に愚かだった。
──最悪の運命を起動させるスイッチだった。
──最悪、殺してでも止めるべき悪行だった。
──その名は、魔の大剣。
『カラドボルグ』
──ボクを・世界を壊した終末だ。
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