セプターネム


「王子さま、か」

雲ひとつない満点の空を、彼は見上げていた。

黒いジャージを広げ、パンクロックの服装で夜風を浴びている。赤と黒の混じったボサボサの髪に、を持ち合わせていた。

臣民あいつらはイイよなぁ。期待なんて抱かれないんだから。余計な思いを背負わなくてイイんだか」

彼のいる場所は、全長40メートルはある塔の頂上だ。彼は恐怖というものがないのか、窓に座り、脚をぶらぶらと揺らしている。

「な? お前もそう思ってるよな?」

返事はない。

。元より此処は、立ち入り禁止地区である。そもそもこんな場所に居るのが異常なのだ。

「だろ? ハ、天の灯に地の明かりが打ち勝つ。イイねえ。いつ見ても」

城下町は日付を跨いだというのに、明るかった。その著しい発展に、彼は思いを馳せていた。

国王おやじが見たら、クソ喜ぶだろうな。ハ、裸踊りでもすんじゃねぇか?」

彼はそう言って、城の方へと目をやった。

城は街とは対照的で、全くと言ってイイほど光が灯っていなかった。気持ち悪いほど静寂に包まれたそこの中心だけは、光が灯っていた。

「さぁて、此度の。どいつが俺を楽しませてくれる?」

彼はニィ、と笑い、塔の中に飛び入った。




「そういや、聞いた? 来月の祭りのこと」

「祭り? はて、一体なんですかな。それは」

村の一端、軽食を胃に流し込みつつ、ボクらは話をしていた。ジュースを飲んでいたら、サルが気になることを口にした。

「知らない!? マジかお前……あぁいや、不思議じゃない? いや、不思議だ!」

「ああ? だから何のことだよ」

笑うサルに、訝しげな表情を浮かべる。

「5年に一度、ランズ王国、王都で一週間にわたって祭りが開催されるんだ。んで、その祭りの目玉が、『参戦対抗さんぜんたいこう』。一言で言い表せば、武道大会、だな」

「その参戦なんちゃらってヤツに興味があるんだ?」

「そう! いやぁ、こう見えても俺、かなり腕っぷしには自信ありなんだ。優勝まではいかなくても、イイ順位は取れるんじゃないかって」

「すーごい自信。ホントに大丈夫なのか?」

「大丈夫だって! 大人も出るらしいけど、勝てるでしょ!」

ドン! と胸を叩いて高らかに宣言した。その顔に一切の曇りはない。絶対的な自信に溢れていた。

「ま、ともあれ、頑張れよー」

店を出てからも、彼はステップを踏んでいる。いつまで経ってもそのテンションは治らなかった。

その光景に少しひいていたボクは、逃げるように言葉を吐く。

「ボクは応援してるよ」

「ん?」

ん? 何で今、サルは疑問系だったんだ?

「ありがとう」でもなく、「おう」でもない?

アイツなら、そのどっちかを言うはずなんだけど。

「ん?」

「何言ってんだ? ?」

「は?」

脳の処理が追いつかず、そのまま追撃がブッ刺さる。

「出るんだって」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!?」


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