かかって来なよ
「はぁ!」
木刀を振りかざす。
先手を取れ。さもなくば、一歩先は敗北だ。
「っと。軽い! 芯が入ってないぞ!」
木刀は簡単にいなされ、無防備の身体が剥き出しになる。構うものか。
木刀を放し、左手に持ち替え横一閃。
カウンターを狙っていたであろう一撃を、
「ぬ!?」
追撃の一撃が相殺した。
力比べはダメだ。経験の差も、実力の差も、筋力の差も、全てがかけ離れ過ぎている。
トビからすれば、ボクの技量など、付け焼き刃にすぎない。
「だぁ!」
なれば、手数を増やすまで。
下からの振り上げ。重心を横に傾ける。
トビはあっさりと攻撃を避けた。当たり前だ。
右足を踏み込み、小手目掛け斜め一閃を繰り出す。
カン!
それすらも読まれているのか、彼の木刀はボクの遥か先で構えられていた。
迫るは逆手の木刀。振り上げの一撃だ。
「っ!」
身体を回転し、剣の軌道から僅かに逸れた。
受けを捨て、最初から回避に専念したのが幸いした。
「ぉお!」
地面に手をつき、倒立の姿勢になる。投げ飛ばした木刀に、回し蹴りの一撃でブーストする!
ドン!
ゼロ距離で猛威力を受けたのに、ピンピンしていた。
(おかしいなぁ……岩なら今ので砕けたよ?)
飛び散った木刀を拾い直す。
「今のは良くやった、返しだ!」
今度は突きの姿勢。咄嗟にボクは身体を晒した。服に掠る。着地の姿勢に変えた瞬間、
「フン!」
トビの膝蹴りが、ボクの肋骨にクリーンヒットした。
「が!」
上空に吹き飛ばされ、意識が飛びかかる。下を見れば、トビが飛び上がり、遥か先にいた。その手には木刀が強く握られている。
(……マズイ!)
この距離であの一撃を喰らえば、必ず気絶する。気絶はせずとも、戦闘不能になる!
トビが剣を振り翳した。剣によるガードは不可能だと判断したボクは、
「……え?」
咄嗟に、右手を突き出した。
「何!?」
その瞬間、ボクらの間合いで黒の小さな爆発が起きた。爆発は2人を巻き込み、煙を焚きつけて終幕を迎えた。
「っと、タクト大丈夫か!?」
「ぅ、うん……それより、今の……」
木刀を投げ捨て、自分の手のひらを見つめる。正面からトビが覗き込んでいた。もう、練習どころではなかった。
「まさか……陰術?」
口を開いたか開いてないかも分かりにくい声量で、トビが呟いた。
「いや……そもそもワシは『コード』の存在自体をまだ……」
深く考えているのだろう。眉間に積もる皺が、さらに深まっていった。
ボクはというと、
(……あ)
今の一瞬が、余りにも自分とかけ離れていたことに、動揺していた。
あの一瞬、あの一瞬だけ、ボクは意思を介していない。身体による身勝手な行動、謂わゆる『無意識』と言うやつだった。
(……今の、擦り傷で済んだけど……)
もし、少しでも火力が高かったら、どうなっていたのか。トビが死んだ? ボクも死んだ?
どうなんだ? 教えてくれよ。
「は、ぁ、は………ぁはぁはぁ!」
呼吸を忘れていたのか、苦しくなって来た。
目の前が、霞んで見える。
ダメだ、指の数すらまともに数えられない。
「タクト!?」
気づいたのか、トビらしき人が駆け寄って来た。視力がほぼ無いせいで、何も見えない。
こんな事は、余りにも久しぶりすぎた。対処の仕方も、力の入れ方も、思い出せない。
そのまま、ボクの意識はそこで途切れた。
縋るように、彼の名を口にしながら。
「……ト……ビ……」
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