タクト

「よ! タクト。今日も疲れてんなぁ」

村から歩いておよそ3キロ。

そこには大きな学校があった。元の世界とそこまで変わらぬそこに、ボクは勉強をしに行っている。

「煩いなぁ、サル。しょうがないだろ、金曜日なんだからさぁ」

「へへ! 確かに」

サル。

ボクの幼馴染にして、学校一の悪ガキだ。

褐色肌のスキンヘッド。赤い眼の特徴を持っている。

器物破損、授業妨害のやりたい放題。人に直接の被害が無いのが奇跡だ。

「じゃあな! タクト!」

そう言って、サルはどこかへ行った。

転生体として、意識が芽生え始めたのは、3歳の頃だ。急に、知らない記憶、知らない人格が生えてきて怖かった記憶があるが、気づけば適合していた。

「さぁて、帰りますかぁ」

学校。に比べたら随分と楽しい。

友達もできた。

まだ、数は少ないけど……。

「ただいまぁ」

「おかえりー」

家に着けば、キッチンでサーラが料理を作ってくれる。タバコを吸って、新聞を読み漁ってるトビ。

(これが、理想の家族か!)

ボクの望んだ夢が、そこにあった。

かれこれ10年弱の時を過ごした。

トビたちは本当の家族じゃない。でも、血の繋がっている家族として接してくれた。

「「「いただきまーす」」」

サーラはトビの1人孫だ。トビには3人の子供がいた。3人とも家を出て、それぞれ何処かで家庭を持っているらしい。

彼女は、長男の一人娘だ。

印象的な緋色の髪を伸ばし、年中薄着の人。

それがサーラ・グランティシア。

長男は世界中を旅しているそうだ。一度、会ってみたいな。

「ふーん。それで? サル君は……」

「そうそう。全くだよ」

他愛もない時間は流れ、もうすぐ暁が訪れる。

夜の帳が、空を支配する。

サーラが、皆んなが、寝静まった後、ボクは起き上がった。

夜はとっても静かで、肌寒い。

戦傷川の近くに、彼は立っていた。

夜風に靡いて、カゲロウのような彼は笑う。

「今日は時間通りだ。成長したな!」

「ふふーん。だろ?」

トビは軽い運動をし、木刀を握りしめた。

投げ渡された一本をボクは握る。木刀はちょっと色褪せていて、年季が入っていた。

「今日こそは一発決めてやるからな!」

「ふふ、楽しみだ」

距離を測り、構える。

これは、訓練。でも、だからと言って手を抜くわけじゃ無い。

全力で、勝ちに行く!

「時間も無いし、始めるぞ!」

「はい!」

相手を睨む。いつもは父親でも、今は敵だ。

「我が名はトビ・グランティシア!」

「我が名はタクト・グランティシア!」

「「いざ尋常に──」」

剣を握って、右足を思いっきり踏み込む。

「「勝負!」」

地面を蹴り、木刀を振りかざす!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る