第55話 八日目 八月六日 一五時一三分(――:――:――)③
(一体何を…………は? 嘘だろ!?)
予測スキル・【
水風船のように膨れ上がった腹が萎み切るほどに空へと吹き上げられたものは、間を置かず雨となって降り注ぐ。それは溶解液の豪雨だった。
「イカれてる……っ」
溶解液を合成しているとはいえ、本体にその耐性はないらしく、直撃を浴びるLv3の体もグズグズに溶け流ていく。表皮に付着した燃え盛るガソリンと共に。
火だるまになっていた全身を溶解させ燃焼状態から脱したLv3は、跡形もなくなった一二枚の羽を同時に再生させ、羽ばたく。
羽ばたきが風を生み、風が空気を呼び込み、新鮮な酸素が満ちる。
酸欠から解放されたLv3は、未だ溶解液
「お前には、称賛しかないよ……」
オレはLv3を讃える。超再生能力があるとはいえ、自らを融解させて窮地を脱する機転と覚悟に驚きを隠せない。
「ここは、気持ちいいな」
空は涼しかった。下は灼熱地獄だったから余計にだ。
オレはLv3の首元、人間なら肩に相当する箇所にいた。Lv3が飛翔する直前に奴の体にしがみついたのだ。
「お互いにボロボロだな」
Lv3の頭部に触角は無く、複眼も溶けて空洞になっていた。オレの存在を認知しているかどうかも怪しい。
羽の再生を第一に優先したせいか外皮の下の筋繊維が剥き出しで、おそらく全身を痛みが
Lv3が、炎上した体を酸で溶かして切り抜けるという離れ技をやってのけたのは、最早驚きを通り越して畏敬の念すら覚えるが、悪手であった。
今やLv3に頑強な外骨格の守りはなく、柔らかな肉がむき出しであった。
『【スキル・ブースト】の効果時間、残り一分』
「邪魔すんなよ」
無粋なゼノンの警告を
服も靴も皮膚もボロボロなオレとは対照的に、傷一つない鋼の輝きを
Lv3の超再生能力は健在で、ジワジワと全身を黒光りする外骨格が覆っていくが、少し遅い。
「悪いが、勝たせてもらう」
生き
【スキル・ブースト】によって増強されたオレの振り下ろした一刀が、虐殺蜂Lv3の首を断ち切った。
頭部を失ったことで羽ばたきが止まり、Lv3の体は重力に捕われる。
「と、とと……」
落下をコントロールし、首から下をタンクローリーから流出したガソリンの火の海へ蹴り落とす。首無しで動き出すことはないだろうが念の為だ。
『虐殺蜂Lv3の討伐を確認。ポイントが付与されます』
オレの心配は杞憂だったようだ。ゼノンから討伐の通知が来る。
「うげっ、しまった」
着地地点を考えておらず、溶解液溜まりに落ちてしまった。慌てて出ようとするが、突如耐え難い倦怠感に襲われる。
『【スキル・ブースト】の効果時間が終了』
「ま、まっ…………」
スキル効果が二倍になる【スキル・ブースト】の反動のせいで、筋肉がまるで反応してくれない。唇すら動かせず顔面から溶解液溜まりに突っ伏す。
(や、やばっ……溶け、溶ける…………)
薄まってはいたがまだ酸性度は高く、体から白煙が上がり剥がれた皮膚が水面を泳ぐ。
何とか這い出ようと
「クッソ、靴が溶ける! 高かったのにっ!」
「いた! あそこ! センパイくんっ!」
「うわ……これ、生きてる……?」
え? オレ、そんなんなん?
「引っ張り出すわよ! せーの!」
「センパイくん、ポーション飲んで! 掛けてーっ!」
安全地帯に運ばれたオレは、大量なポーションを飲まされたり掛けられたりした。
「お、おお……まだ生きてる」
ポーションの効能は絶大で、オレは怪我も【スキル・ブースト】の反動からも回復した。
「センパイくん、良かっ……あ」
綾がクルリと背を向ける。
「
「
騎士と
「とりあえず服を出すわね。制服でいい?」
綾と騎士と誠也と理乃に裸を見られた。誰にも見せたこと無かったのに。いやあったか。
強敵を倒したというのに、全く決まらないオレだった。
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