第54話 八日目 八月六日 一五時一三分(――:――:――)②
「しっかり掴まっててっ!」
タイヤが摩擦音を鳴らし急発進。オレたちが離れると、Lv3の羽を銃撃しその場に留まらせていた自衛隊員らも散り散りに車両を走らせる。
(今のうちに……っ)
オレはストレージから銃を取り出し引き金を引くが、ガードレールに当たる。バイクの振動で照準がブレて全く当たる気がしない。
「ヘタクソだなぁ」
綾がブレーキをかけ、「降りて降りて」とバイクから降ろされる。
「腕を伸ばしてボクの肩に置いて……そうそう」
オレの前に立った綾の肩に銃を持った腕を置く。腕を掴まれ固定される。
「これくらいかな……撃ってみて」
引き金を引く。タンクローリーに命中するが爆発はしない。しかしバルブらしきところから液体が漏れ出しているのが視認できた。
「……というか、オレじゃなくてお前が撃てばいいだろうが?」
何となくだが、綾は銃を扱った経験がありそうだった。
「先輩に花を持たせたいって、優しい後輩心が分からない?」悪ふざけをする子どものように綾は舌を出す。「ヒーローになってよ、センパイくん」
Lv3は羽の修復を終えたが、まだタンクローリーの傍にいる。奴を倒せるなら、ヒーローでもヒールにでもなってやる。
再び発砲。
しゃがみ込んで熱さを堪えながら瞼を開くと、道幅一杯に広がるオレンジの炎と黒煙で向こう側が一切見えなくなっていた。とにかく熱と煙がひどい。呼吸が上手くできない。ガソリンの燃焼力は凄まじく、想像以上の被害を周辺に齎していた。
「やったのか…………?」
これほどの爆発に巻き込まれて無事だとは思えないが……
「熱い……苦し……」
綾が玉のような汗を浮かべ苦しそうにしている。かなりの距離をとったつもりだったが、熱量は想定を遥かに超えていた。
「もう少し離れよう」
オレたちはバイクに二人乗りし、放置された車の影に入り盾にする。
「んくっ、んくっ、んくっ…………ぷはっ。熱すぎ……」
綾がストレージから出したペットボトルの水を飲み、頭からかける。濡れたシャツに下着の線が浮かぶが、それもすぐに乾いてしまう。
「なんでセンパイくんは平気なの……?」
「オレには【熱耐性】のスキルがあるからな」
望まずに得たものが役に立つこともあるらしい。これも【スキル・ブースト】で効果が二倍だ。
勢い良く燃え上がっていた炎が揺らぎ、黒煙を割くようにLv3が出てくる。
体中に火がつき、大小さまざまな破片が突き刺さっている様は相当な深手を負っているように見えた。が、Lv3はおもむろに燃え続ける己の
羽の断面から赤い肉が増殖し、傷一つない新たな羽が生えてくる。全ての羽を再生されたらまた逃げられてしまう。
「あっさりとやられろよ」
ここにはオレたち二人だけしかいなかった。忠伸ら自衛隊や誠也は炎の向こう側で、理乃や騎士はビアンカと源造を安全な場所へ運ぶことを優先させたのだろう。
どうにか出来るのは、オレたちだけのようだ。
追撃しよう腰を浮かせるが、服を引っ張られる。
「待って……なにか、変……」
熱気に顔を
Lv3はゆっくりと道路に倒れ込み、ズル、ズル、と
刺さった破片は抜け落ち、燃えている羽などの箇所を除けば傷のほとんどが治癒しつつあるのに、動きが妙に重く、飛んで逃げようとはしない。
(何だ……?)
チャンスに思えたが理由が分からない。だがその理由がLv3を倒す上で重要になることは分かった。
「……ここでも熱いね……虐殺蜂は、平気なのかな……?」
玉のような汗を流し息苦しそうにしている綾の姿に閃く。
「センパイ、くん?」
平気ではない。おそらく虐殺蜂に発汗などの体温調節機能はない。奴は炎上するガソリンの高熱に当てられ、鉄板の上のステーキ状態になっているのだ。さらにあの巨体を動かすには大量の酸素が必要なはず。だがそれも炎によって消費され尽くしている。
つまり奴は超再生能力で辛うじて命を繋いでいるだけの
(いや……熱っつッ!)
肺が焼かれ、眼球の水分が蒸発する。炎の熱気は尋常ではなかった。それでもLv3へと走る。
Lv3の複眼にオレの姿が反射する。しかしそれに対するリアクションは皆無。奴が瀕死状態であることの何よりの証明だった。
『【熱耐性】がLv6から7に上昇。さらに【スキル・ブースト】により、スキル効果が二倍になります』
(スキルアップ来た!)
ラッキーなタイミングでスキルレベルが上がり、熱による苦痛が和らぐ。
疾走速度を上げ距離を縮める。Lv3は飛ぶでも攻撃するでも無く、ノロノロと這いずってくるだけだ。
ダンッ、と大きく飛び上がり、地面の反発力を乗せた斬り上げで羽を一枚。さらに振り下ろしで二枚目を斬る。再生した羽は二枚のみ。それを失い動く術を断たれたLv3は、移動すらできなくなる。
「ッ!」
逆走する。ここは灼熱地帯だ。オレでは長く留まれなかった。
「ブハッ!」
耐えきれる熱さの所まで後退し息を吸う。熱さと酸欠で目眩がした。
Lv3は羽の再生を始め、傷口から赤い肉が盛り上がってきていた。Lv3の再生能力はチートだ。しかし無限に再生し続けられるわけではないはず。限界が訪れるまで我慢比べといこうか。
「うしっ、行くぞ」
水分を補給し気合を入れると、オレは再び灼熱地帯へ舞い戻る。
と、急にLv3がゴロンと転がる。仰向けになった奴は、腹部を高く持ち上げた。
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