第53話 八日目 八月六日 一五時一三分(――:――:――)①
火花を散らしながら滑るタンクローリーが停止するとLv3がその上に舞い降り、車体を大顎で挟む。車内の
オレはそこに銃を向ける。タンクローリーとすれ違う際に、「撃て」と源造から投げ渡された銃だ。
奴が運転していたのはガソリンが満載されたタンクローリー。つまりはそういうことだろう。
なぜ奴がそんな自己犠牲的な行動をとったのかは分からない。が、圧倒的な進化を遂げたLv3への有効打になることに違いなかった。
撃つべきだ。そう理解していても、引き金にかかる指は固まり、一ミリも動いてくれなかった。
「クソッ!」
オレは自分の罵り、再び銃を構えた。しかし指は動いてくれない。
と、視界に捉えていたタンクローリーが何かによって遮られる。
『
額から唇が離れる。伸び上がっていたビアンカの顔が下りてきて、その青い瞳に見つめられる。失神から目覚めたのか。老婆になっても、ビアンカの瞳の輝きは失われていなかった。
「行って」
ビアンカは口を動かすのも辛そうだ。【スキル・ブースト】は、効果の代償に寿命を奪う。ビアンカの時間は後どのくらい残っているのだろうか。
「だいじょうぶ……だから……しんじて」
ビアンカが微笑む。
「信じる……オレを?」
問うとビアンカが頷く。自分を信じる。それは誰よりも自分を信用していないオレには難しいことだった。
「いっ……っ!」
パシンッと背中を叩かれる。ビアンカは厳しい目で「行きなさい」と命じる。
オレは苦笑し、「はい」と答えた。
バイクからビアンカを降ろし、前輪をタンクローリーへ向ける。
「安全なところに隠れていてくれ。
アクセルを回しバイクを走らせる。タンクローリーが近づき、程なく取り付くLv3の複眼がオレを捉える。
「うおらっ!」
オレはバイクから跳躍し、【黒のスマホ】から
力を込めた鵺鳴を振り下ろそうとした瞬間、突風が体を叩く。
鵺鳴は空振りし、羽を羽ばたかせたLv3はあっという間に上空へ逃げてしまった。
「そう上手くはいかないか」
着地し、嘲笑うように空を駆けるLv3に舌打ちする。
横倒しになっているタンクローリーによじ登り、助手席のドアを開く。運転席の源造は頭部をフロントガラスに打ち付け出血していた。シートベルトをしていなかったらしい。間抜けめ。
「起きろ! このクズ親父ッ!」
【黒のスマホ】のストレージからポーションを取り出し浴びせると、源造は薄っすらと目を開いた。
「お、お前なんで……」
「うるせえバカ」
クズならクズらしく、ずっとクズでいればいいのに。自分を犠牲にして敵を倒そうとする奴を見捨てることがオレにはできなかった。まして、その命をこの手にかけることなら尚更だ。
すぐにLv3が降りてくる。猶予はない。源造の腰のベルトを掴む。能力上昇のおかげで片腕でも源造を車外に引っ張り上げられた。
――【危険感知】
「だあクソっ!」
源造を背負いジャンプすると、背後で派手に運転席が潰れる。Lv3が落下してきたのだ。
「バカ野郎……撃て、と言っただろうが…………」
「お前の小汚い顔なんて思い出したくないんだよ」
もし源造を殺してしまえば、オレは一生コイツの顔を忘れることはできないだろう。そんなのは御免だった。
「銃を寄越せ……このヘタレが……」
「黙ってろ」
何でこんな老害クソ親父を助けてるんだオレは。どうせなら助けるなら見目麗しい美少女が良かった、と嘆きながら周りを見回す。
「バイク……あ」
Lv3の下敷きになっているのが、探していたバイクじゃなかろうか。
ぷくーとLv3の腹部が膨らむ。その水風船のように膨らんだ内部にあるのは、金属すらも溶かす溶解液だ。
「汚えケツの穴を向けんじゃねえよ」
悪態をつくが、人を一人を背負っている状態ではいくら能力が上がっていても回避は厳しい。【危険感知】の上位スキル・【
「俺を、置いていけ……」
「嫌だね」
源造がらしくないことを言う。頭の怪我は思いの外
溶解液の発射口が開く――寸前、Lv3の頭部がグワンッと揺れる。
「戻れ鉄球っ!」
視界に過る何かを目で追うと、マンションの屋上に人影。
次いでオレの周りに続々と車やバイクが集まり、窓が開き銃が発砲され出す。自衛隊や警察の面々だった。
「センパイくん、乗って!」
バイクで駆けつけてきたのは
「オッサンはこっちに!」
「ビアンカさんは回収したから離脱するわよ!」
背負っていた源造が
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