第51話 八日目 八月六日 一三時四〇分(――:――:――)④
校舎横の駐輪場に停めてあるバイク。緊急事態により拝借してオレのものにした。
倒れていたのを起こし、キーを入れスタータースイッチを押す。唸りを上げエンジンが始動。異常無しだ。
「頼むぞ」
ビアンカを前に抱きながら座席に跨り、アクセルを開く。
バイクを走らせ裏門から公道へ。一台も車が走行してないので事故の心配はない。それでも信号は律儀に点灯していた。
着信があったので体内から【黒のスマホ】を取り出し、通話状態にしてスマホスタンドに差し込む。
『センパイくん、今どこ?』
「6号線に入るとこだ」
バイクを左折させ国道6号へ。放置車両もまばらで見通しが良い。運転しやすいのは幸いだった。
『Lv3は体育館から飛び立ったよ。多分、そっちに向かってる』
「だろうな」
マップを開けば、この最終試験の討伐対象である
「本田
『時間を稼ぐって……どうやって?』
「逃げ続けるんだよ、寝ないでな」
虐殺蜂は夜になると活動しなくなる。Lv3もそうだったら休めるのだが、位置が丸わかりな以上、二四時間延々と鬼ごっこを繰り返さなければならないかもしれなかった。賢治の分析能力が奴の弱点を見つけ出してくれることに賭けるしかない。
『分かった……できるだけ早く攻略法を見つけ出すから』
「頼む」
『センパイくん』
綾らしからぬ重苦しい声色だった。
『死んだらダメだよ。絶対に生きて』
懇願するような
「…………お前は知らないだろうが、オレは生き残るのは得意なんだ。任せておけ」
『信じてるからね!』
通話が切れる。
「死ぬな、生きろ……か」
そんなことを言われたのは生まれて初めてだった。逆ならあるのだが。
「さて」
口元を引き締め、ビアンカを抱き直す。今は逃亡中。ボヤボヤしている時間はない。
このまま国道6号を北上すると茨城県まで行ってしまう。おそらくそこは通行できない。どこかで進路を変更しなければならなかった。ガソリンも補給したいし、長丁場に備えて水と食料も手に入れたいところだ。もしもの時のために、できればポイントは使用したくなかった。
不意に空気が変わる。
バイクが軽くなった? いや、受ける風の抵抗が減ったような気がする。
恐る恐るミラーで後方を確認すると、雲をウネウネと蛇行する何かが映り込んでいた。
「嘘だろ……っ」
バイクの速度メーターの表示は六〇キロ。あの巨体でそんなスピードが出るのか。すぐに八〇キロまで加速する。が、ミラーの虐殺蜂Lv3は小さくなるどころか大きくなっていた。さらに加速し一〇〇キロへ。
(これは……ちょっとマズイな)
叩きつけるような風に目を開けていられない。ヘルメットを被っておくべきだった。
こんなスピードでカーブを曲がれるだろうか? しかも二人乗りで。事故を起こさない自信がこれっぽっちも無かった。少しでも距離を離すため、細心の注意を払い速度を維持する。
ブオォォーーーーン、ブオォォーーーーン。突然、けたたましい音が鳴り響く。
見れば、対向車線の大型車がクラクションを鳴らしていた。その運転席に座る男。ソイツには見覚えがあった。
(
権藤源造。九弦学園高校に乗り込んできて好き勝手やろうとしたクズ野郎だ。なぜ奴がこんなところに?
目を点にしていると、車両とすれ違いざま源造と視線が合い、窓から何かを放ってきた。
反射的にキャッチするが、その重量感に驚く。
「…………銃?」
金属の冷たい感触。リボルバー型の弾倉には弾丸が全弾補充されていた。
バイクを停車させ振り返る。源造の大型車は、虐殺蜂Lv3へと突進していた。
Lv3の進路が切り替わり、源造へと向かう。
「そうか、アイツは確か……」
虐殺蜂討伐数ランキング第一位。どんな手を使ってか、権藤源造はオレを上回る討伐数第一位の座に君臨し続けていた。仲間を大事にする虐殺蜂は同胞を大量に殺した源造への復讐を、『試験』のクリアよりも優先させたようだ。
大型車をLv3が追う。やがてLv3は大型車を源造ごと攻撃するだろう。その車がガソリンを満載したタンクローリーだと知らずに。
「アイツ、まさか……」
窓から銃を放ったとき、源造は「撃て」と言った。そういうことなのか?
タンクローリーがLv3と衝突し、横転する。
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