第47話 八日目 八月六日 一二時〇〇分(――:――:――)

 オレは英里らから受け取ったポイントと貯めていたポイントを使い、ゼノゾンでスキルを強化した。




 当真仁とうまじん


 ギフト 【刃の祝福】


 スキル 【俊足Lv9】→【縮地しゅくちLv1】 【頑健Lv4】→【頑健Lv7】 【剛力Lv2】→【剛力Lv6】 【悪運Lv5】 【危険感知Lv9】→【危険可視きけんかしLv1】 【熱耐性Lv6】 【寒耐性Lv4】 【電耐性Lv2】 【飢餓耐性Lv9】 【苦痛耐性Lv9】 【痛覚無視LvMax】 【剣術Lv3】→【剣術Lv5】


 カーズ 【レンの呪い】




 これに加え、刀の鵺鳴ぬえなきも強化。元々のサイズよりも一回り大きく長くなり、重量も増加した。この刀は九弦家くづるけから一時的に借りている物なので勝手に改造したら怒られるかもしれないが、今は良いことにする。


 綾、誠也、騎士、理乃らも、スキルと武器の強化や購入をしていたが、中身については聞いていない。スキルとギフトは過ごしてきた人生と性格を反映したものなので、他人に知られたくない。それは綾らも同様だろうと思ったからだ。


 大人たちは自衛隊の指揮のもと、九弦学園高校を要塞化した。


 流岩ながれいわショッピングタウンから物資を運び、虐殺蜂が活動を停止する夜間に作業を行う。体育館の床、壁、屋根には鉄板が敷き詰められ、周囲を防球ぼうきゅうネットで覆った。校舎の屋上はフェンスで厳重に囲われ、狙撃しやすいよう窓が設けられた。


 迎え撃つ準備は万端だというのに、最終試験が開始されて一週間経っても虐殺蜂が攻め込んでくる気配は無かった。


 自衛隊が二四時間体制で監視する虐殺蜂ぎゃくさつばち・クイーンの巣は、そこから出てくる群れを駆除し続けたところ、巣穴から一匹も出てこなくなった。


 また警察の協力のもと、食料調達を担う虐殺蜂を追跡し、千葉県内に点在するほぼ全ての虐殺蜂の巣を発見。犠牲者を出しながらもいくつかの巣を壊滅させることに成功していた。


 飛行する成虫を虱潰しらみつぶしにした効果は顕著で、虐殺蜂を一匹も見ない日が続いた為、避難者のうち戦闘に向かない者に禁止されていた外出が短時間許可された。数週間も避難場所である体育館で過ごすことを余儀なくされた避難者のストレスは相当だったようで、太陽の光を浴び涙する者もいたほどだ。


 順調だった。人間側に優位なまま状況が推移していた。それが恐ろしくてならなかった。幸運や平穏は長くは続かないというのがオレの人生観だったからだ。


「も、燃やそう……」


 だからオレは、定期報告会議でそう提案した。九弦学園高校の校長室で行われるこの会議は、学園の代表として九弦義円くづるぎえん。自衛隊から本田忠伸ほんだただのぶ。警察から川原行人かわはらゆきと。保護対象として深森みもりビアンカとその体調を管理する生田賢治いくたけんじ。そして九弦綾くづるあやとオレが参加していた。このメンバーは各組織から大きな信頼を与えられているから、賛同を得られれば提案が実行される可能性は高い。


「ガ、ガソリンをブチいてクイーンの森を燃やすんだ。や、奴らを火の海に焼べて、全てを灰に、は、はは、灰にしてやるぞぉっ!」


 ダメだった。話しだしたら、とっくに限界を迎えていたオレの理性はどこかへと消し飛んでしまった。


「……あれ? センパイくん壊れちゃった? よしよーし、こっちにおいでー」


 綾に頭を撫で撫でされる。


「こ、怖い、平穏が怖い……何もない日常が怖い……。まだ始まらないのか? 血と、痛みと、命を懸ける闘争の時間はっ!」


「戦争帰りの兵士みたいなことを……生田先生、これ注射で治る?」


「心の病は専門外なのですが……鎮静剤でも打っておきますか?」


「や、止めろ! オレはまだ正常だ!」


 オレは医療器具を詰めた鞄から、注射器を取り出そうとする賢治から逃げる。


「実際に、そういう話は出ている」


 忠伸はオレ達のやり取りなど意に介さず、ソファーに深く腰掛けている。


「ガソリンを大量に積載できる車両を手配できないか、確認中だ」


「ほ、本当かっ! やろう、今すぐやろう! 奴らを跡形もなく焼き尽くすんだっ!」


「先生、ボクが腕を押さえておくから、この人を静かにさせて」


「や、やめろ! ……え、ホントに動けん」


 綾に組み伏せられ寝技をかけられると、オレはその状態から全く身動きが取れなくなった。


「ふむ……しかしそんな事をして大丈夫なのですか?」


 義円がオレたちを視界にも入れず疑念を口にすると、行人が苦々しい顔をしながら口を開く。


「できるのですよ。残念ながら虐殺蜂・クイーンの巣の周辺には、誰一人として残っていないのです」


「ああ……」


 苦悶のような声を漏らし義円は顔をしかめる。例え巣とその森を大火事にし周りの家々を延焼させようと、その家に住んでいた人々は既に虐殺蜂によってこの世にいないのだろう。物静かに見える川原行人という警察官から、沸々とした怒りが滲み出ていた。


「だから…………なんだ?」


 忠伸が左手から【黒のスマホ】を取り出す。体内に収納できる【黒のスマホ】が直接手の平から出てくるのも見慣れた光景だ。そしてほぼ同時に行人のスマホにも連絡が来る。


「どうした? ……ああ、そうか。対応する」


 忠伸が通話を切り、皆を見渡す。


「動き出しました。巣から大量の虐殺蜂が飛び立ったようです」


「こちらも同様です」


 自衛隊と警察の監視範囲は異なるが、同じ行動が広域で起こっているようだ。


「目指しているのは、当然ここか」


 義円が言い、ビアンカを見遣る。ビアンカを殺害すれば虐殺蜂の勝利は確定し、奴らの食料問題も解決するのだろう。


「間違いなくこれが、虐殺蜂のラスト・アタックです」


 断定する賢治に、全員が静かに頷く。

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