第34話 四日目 七月二四日 一三時四七分(06:22:13)

 卵を植え付けられた人間に意識は無く、脈は遅く呼吸は浅く体温は低い、いわゆる仮死状態のようになっていた。これは虐殺蜂ぎゃくさつばちの毒が原因であると賢治けんじは診断した。


 摘出が出来ない以上、医師らにやれることはなく、病室のクーラーを目一杯稼働させ室温を下げ、孵化ふかを遅らせることが精一杯であった。彼らが助かるかどうかは時間との勝負だ。


 人間と虐殺蜂、互いの拠点数は八対八の同数。次に拠点を破壊した側が第二次試験の勝利条件を満たすことになる。


 とはいえ、消防車の放水による虐殺蜂の飛行妨害はハメ技だった。必ず勝てる。なのでオレたちは、自衛隊のお偉方が次の破壊目標を決定するまで待機していた。自衛隊の本田忠伸ほんだただのぶと連絡先を交換したので、やがて連絡があるだろう。


「センパイくん、次」

「へい親分」


 オレは何でも購入できるゼノゾンで矢束を購入し、そのうち一本をあやへと差し出す。


 九弦くづる学園高校・屋上。綾はここで高校へ接近してくる虐殺蜂を狙撃していた。やってくる虐殺蜂の数は少ない。向こうは向こうで何か企んでいるのだろうが、穏やかなものだった。


 綾が撃ち落とした虐殺蜂の分け前をくれると言うので、オレは喜んで矢の補充係に就任した。楽して稼げるなら、年下だろうが女だろうがヘコヘコと媚びへつらうのが当真仁とうまじんという男の生き方だった。


 それに綾に付き従っていれば、氷像になったアンジェリカから片時も離れないビアンカの姿に、頭痛を覚えずに済んだ。


「…………おーっ」


 また綾の放った矢が虐殺蜂に的中。オレには空に浮かぶゴマ粒みたいにしか見えないがよく当てられるものだ。一時間で一〇本以上も射っているが、今のところ百発百中。


 綾は拠点破壊で得たポイントで弓を新しいものに買い替えた。スキルも強化したようだ。【黒のスマホ】でポイントを割り振ることでスキルを強化し、身体能力を向上させることができるのがこの『試験』の特徴だった。


 オレは今のところポイントをスキル強化に使っていない。傷んだ刀の修復と、ポーションを何本か購入したくらいだ。ポイントは何にでも交換できるので、貧乏性なオレは使う気になれなかったのだ。


 また一匹、虐殺蜂を射落とす。綾が矢を射る様は美しかった。こっそり動画を回しているが、綾は集中しているので気づいていない。いつまでも飽きることなく見ていられる後ろ姿だった。


「センパイくん」

「んー?」

「後で動画、消しなね」

「…………はい」


 バレてた。


 その後、一人で虐殺蜂の死骸を回収することを命じられ、七月二四日は何事もなく過ぎた。

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