第17話 最終日 七月二〇日 一〇時一七分(00:01:43)

 あと二時間足らずで、第一次試験のタイムアップを迎える。


 【黒のスマホ】が示す試験内容は殺戮戦さつりくせん。より多くの敵を倒した側の勝利とのことだが、残り時間一時間四三分で、人間と虐殺蜂ぎゃくさつばちの生存数は5753619(91.4%):28916(98.5%)。


 人間側の被害が五三万九九二三人なのに対し、虐殺蜂はたったの四三二体。本当にそれほどの人間が殺されたのが俄かに信じられないが、数字上、敗北は決定的だった。


 だからといって生徒と保護者からなる九弦義円くづるぎえんのグループと、避難者からなる野上英里のやまえりのグループが和解することはなく、未だにいがみ合っているらしい。


 昨晩オレは図書室で眠ったが、綾とアンジェリカは体育館に戻った。一晩を体育館で過ごし、あやだけがここへやってきたが、見るからに憂鬱そうだった。


「なんで皆、あんなにワガママなの? そういう状況? 大人なのに何してるの? ねえセンパイくん、ちゃんと聞いてる?」

「お、おお……聞いてる聞いてる」


 綾の愚痴が止まらない。よくそんなに怒れるな。迷惑だから帰ってくんねえかな。オレは内心でため息をつきながら窓の外を見やる。


「……おい」


「大体、叔父さんも叔父さんだよ。ああいうのを一々相手に、」

「おいって」

「え、なに?」


 人の話を聞いてない綾の肩を突付く。


「警察だ」


 校庭にパトカーが入ってきた。


「わ、ホントだ」


 パトカーの後ろについているのは、コンビニの配送車か? だがペイントされたロゴがバラバラで、それぞれ異なる会社の車が三台。食料でも配っているのだろうか?


 パトカーが停車する。校庭には何十台もの車が駐車されていて、体育館まで車を寄せることができない。


 虐殺蜂が体育館の外壁から離れ、パトカーへと集まる。さて、どうなるか――と固唾を飲んで見守っていると、虐殺蜂が弾けた。


 破裂音が幾重いくえにも重なり、虐殺蜂が地面に落ちる。パトカーや配送車の窓からの突き出ているのは銃だろう。それも一丁や二丁ではない。


 配送車の積み下ろし用の後部ドアから何人もの男が降りてきて、まだ息のある虐殺蜂を棒のようなもので叩き止めを差す。死骸はきっちりと【黒のスマホ】で撮影していた。


 手慣れている。だが、


「警察じゃないな」

「……だね」


 パトカーや配送車から降りてきたのは全員男。そのうち一人として警察の制服を着ておらず、GパンにTシャツ、または灰色の作業着のような服装だった。


 数は一七人。二列になって虐殺蜂を射撃しつつ体育館へ進んでいく。どうにも怪しい集団だった。


「あっ!」


 体育館から駆け寄ってきた女を、先頭の男が殴った。確か野上英里とかいう避難者のリーダーだった女だ。


「敵だな」

「友好的……とはとても言えないね」


 オレは綾と目配せし、図書室を出る。

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