第13話 九弦綾
「やっぱり、
立ち止まってボクは言った。理乃ちゃんと用具室の小窓から脱出し、怪我人にポーションを届けるため体育館へ向かっていたけれど、足が進まなくなってしまった。
「三人を、あのまま放っておけないよ」
「綾ちゃん……」
理乃ちゃんが思い悩む顔をし、一つ息をつく。
「本当に頑固な子」
「ごめんなさい……」
理乃ちゃんがボクの頬に触れる。
「絶対に無茶しちゃダメよ?」
「分かってる」
「信用できないなぁ」
ボクの性格を熟知している理乃ちゃんは苦笑する。子供の頃から苦楽を共にした姉のような存在から、信用されていなかった。
ボクは理乃ちゃんに【黒のスマホ】からポイントを譲渡する。
「校長先生に事情を話して対応するから、それまでは大人しくしているのよ……って、もう居ないし」
ボクは既に踵を返し、武道場へと走り出していた。
「あなたは優しすぎるわ、本当に。それは
理乃ちゃんの言葉の最後は、ボクには聞こえなかった。
ボクは校舎の影から武道館を仰いだ。見ている間にも、数体の
(失敗した……っ)
唇を噛む。発案した時は良い作戦だと思った。虐殺蜂を誘い込み、閉じ込め、撃破する。実際にあっさりと成功した。しかし、その後がいけなかった。
虐殺蜂を侮り、武道館の構造を確かめなかったことで、三人が逃げ出せず窮地に陥っている。
夜になれば虐殺蜂は巣へ帰るかもしれない。しかし帰らないかもしれない。あんなどこから現れたか不明な生物の行動を予測することなんて不可能だった。
三人がもし死んでしまったらと想像すると、ボクは言いようのない恐怖に襲われた。
中の様子が知りたい。その一心で武道館の脇にある木を登り、屋根へと跳び移る。
上空に虐殺蜂の姿はなかった。全部中に入ってしまったみたいだ。
足音を消し、破られた窓から内部を覗き見る。
武道館内は虐殺蜂で溢れていた。その数は二〇以上。さらに壁に取り付き何かしている。あれは壁を食い破ろうとしているのか。
「ダメ!」
ボクは【黒のスマホ】のストレージから弓を取り出し矢を引き絞る。しかし矢を放ったとしても、数体を倒しただけで無意味だと直感的に理解していた。
「どうすれば……っ」
「ううっ」
矢を放とうとしたその時、壁が大きく崩れた。
次いでボクの口から上がったのは、悲鳴ではなく非難の叫びだった。
「あ、あ、ああ〜〜〜〜っっっ!」
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