第11話 一日目 七月一八日 七時二一分(02:04:39)①
体育館を取り囲んでいた
眠るのか、それとも夜目が効かないのか。いずれにしろその性質を利用し、早朝に行動することになった。その結果オレは今、虐殺蜂の群れに追われていた。
「エンディングで走るアニメは名作らしいが、どう思う?」
「それは、いま、聞くことなのかっ!?」
隣で汗だくで走る
校舎と校舎の間を走る二人の男子高校生が、熊のように巨大な蜂に追い立てられていた。見栄えするシーンであった。背中から追い立てられて殺されそうになっているのが、たった一つの命しか持たないこのオレでなければ。
オレたちは虐殺蜂を引き連れてくる囮役だった。
早朝の校内を探索し、集まり始めた虐殺蜂を呼び寄せる。三体でよかったのだが、困ったことに六体も引き寄せてしまい、なおも増殖していた。
「ひぃ、へぇ、はぁ……」
誠也がバテだす。
誠也は九弦学園高校野球部で一番の俊足とのことだが、はっきり言って遅い。おそらく弱小野球部なのだろう。オレが視線や小石を投げて牽制しなければ、とうに捕食されている。
「二人とも、こっちよ!」
大声で呼ぶのは
「先に行く。死ぬ気で走れ」
「え、あ、お、おいっ!」
オレは誠也を置いてけぼりにして、走る速度を上げる。
武道場へ飛び込み、両開きの扉の片側へ。反対には理乃が待機していた。理乃と目配せし、タイミングを図る。
誠也が転がり込んで来て、その後に一体の虐殺蜂が続く。次いで一体、また一体と侵入。
「今!」
想定の三体が武道場に入ったところで、理乃と連携し扉を閉める。扉にガガンッと衝突の振動が走るが、分厚い木製の扉を破壊するにはいたらない。しっかりと内鍵を掛ける。
武道場は体育館と比べ天井が低く狭い。高度のとれない密室に閉じ込められ、虐殺蜂三体は接触しないよう互いの距離を測らなければならなかった。前回の、ビアンカの家での戦闘を参考にした。
バタバタと慌てて誠也がこちらへ来て、【黒のスマホ】から金属バットを取り出す。オレは左右の手に万能包丁と果物ナイフ。理乃は無手だが柔道と空手の有段者だから、その肉体が武器だ。
オレたちには横並びになり、虐殺蜂を待ち構える。虐殺蜂は徐々に高度を下げ、こちらへと迫ってくる。
「うおらああああーーっっっ!」
「ハアアアアッ!」
扉を背にして右手、武道場の用具室から
オレたちに気を取られていた虐殺蜂は側面からの奇襲に虚を突かれ、騎士のバットと綾の木刀による一撃を浴びせられる。
「せい……りゃあああああっっっ!」
気勢と共に理乃が跳躍。空中にいる虐殺蜂を蹴り飛ばす。
綾といい理乃といい、この二人はオレの知ってる女とは別種の生き物だなと思いつつ、地面に落ちてひっくり返っている虐殺蜂を包丁で処理する。
他の二体も、綾と騎士が止めを差していた。
「や、やった、やったな、おいっ!」
「お前は何もしてないがな」
「いや頑張ったろ俺! 頑張って蜂をつれて来たろっ!?」
戦いにおいては何の役にもたってない誠也をからかい、笑いが起きる。
この五人で正解だった。ポーションを買うポイントを得るために虐殺蜂を狩る提案された際、名乗りを挙げたのはこの五人だけだった。もっと人数が必要かとも思ったが、臆病者を混ぜて足手まといになるよりずっと良かった。
必要だった虐殺蜂三体の死骸を撮影し、ポイントに変えた。
(……ん?)
オレがゼノゾンで売却した虐殺蜂の価格が三万一〇〇〇ポイントだった。一〇〇〇ポイント高い。個体差があるのだろうか? 何にしろポイントが増えるなら文句はなかった。
「次にいこう!」
綾に全員が頷く。
あと外に何体いるのか分からないが、虐殺蜂が集まらない内に体育館に帰りたい。数が少なければ一斉に飛び出して校舎に入ればいいし、多ければさっきのように数体ずつ武道場に閉じ込め駆除した後で逃げればいい。今はスピード勝負だ。
――【危険感知】。突然のスキルの警告に怖気が走る。
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