第10話 一日目 七月一七日 一六時〇四分(02:19:56)

 【くろのスマホ】は互いの合意があれば、ポイントやストレージ内の物品をやり取りできた。アンジェリカが六万ポイント、騎士ないと誠也まさやが三万ポイントずつ、そしてオレが六万ポイントで計一八万。これに綾の残りポイント一四万を合わせ三二万ポイントになったが、四人分のポーションを買うには足りない。


「あと一人なのにっ」


 悔しがるあやが唇を噛む。


 ゼノゾンで三本のポーションを購入し、重傷の三人に使用した。三人は死の危機を脱することができた。


 残りの一人は九弦くづる学園高校がくえんこうこうの女生徒。虐殺蜂ぎゃくさつばちが侵入したときの騒動で突き飛ばされ足を骨折したらしい。患部が倍ほどに膨れ上がり赤黒く変色していた。他の三人のように出血はしていないものの、放置していて平気な状態には見えない。処置しないのは危険だろう。


 ポーション三本を購入した差額は二万。ポーションをもう一本買うには八万足りない。虐殺蜂を三体倒す必要があった。


「で、どうやって倒す?」


 オレの発言に、綾が意外そうな顔をする。


「どうしたの? 積極的だね?」

「まあ、本音を言えばやりたくないんだが、ああやって苦しんでいるところを見るとな……」


 女生徒の顔色は悪く、マットの上で友人たちに看病されていた。


「ふぅーん? へえええ〜」


 綾がなぜだか、嬉しそうに小突いてくる。


「何だ?」

「別に!」


 綾が白い歯を見せ笑う。


 口にしなかったが後ろめたかった。車で虐殺蜂を轢いたとき、オレが車内で綾の尻に鼻の下を伸ばしてなければ、死骸の三、四体は撮影できていたはずだ。そう考えると苦しんでいる女生徒に対し、あるかないかの良心が傷まないでもなかった。


「でも、この時間から行動するのは厳しいわね。やるにしても明日よ」


 理乃が難色を示す。時刻は午後四時を過ぎていた。外はまだ明るいが、二時間もしないうちに日が落ちるだろう。真っ暗闇で虐殺蜂とやり合いたくはなかった。


 とりあえず、今は食って寝ることにする。

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