5話:主人公:眠れなかった夜
昨日と同じく、リリア様とお風呂に向かう。
脱衣所で手早く脱いで、リリア様より先に入浴して心を落ち着かせる。
昨日の私がのぼせ上がるほど興奮したのは、初めてのことでそうなっただけだと思う。
今の私は経験済み。問題なんてない。えっちな目で見たりもしない。
視界の外でリリア様が入浴してきた。
先に別の人から見て、自分の感覚を確認しておく。
一人の女性の裸体を見る。
綺麗……。
別の女性の裸体を見る。
この人も綺麗……。
改めてリリア様の裸体を見る。
綺麗でえっちすぎる……。
自分の両手で顔を覆った。
どうしよう、リリア様だけ特別な目で見てしまう。
私はもうダメかもしれない。なんか、こう、色々と。
邪念に打ち勝つためにも覚悟を決めよう。
お風呂の間だけは、絶対にリリア様の顔や身体を見ない。
そんなに見ない。
あまり見ない。
見ないかも。
まれに見る。
ちょっとだけ見る。
ごめんなさい、見ます。
深い覚悟と、なんだかんだ言っても二回目だから少しは見慣れたこともあり、お風呂でのぼせることはなかった。
湯上がりの熱が引いた頃、昨日は書けなかった日記を取り出して机に向かう。書き出す前にリリア様から声をかけられた。
「それは……日記?」
「はい! 入学祝いで院長と子どもたちが一緒に選んでプレゼントしてくれたんです」
孤児院のみんながコソコソと話をしていたのは知っていたけど、まさか入学プレゼントを貰えるなんて思ってもいなかった。
『学園で楽しい思い出をいっぱい作ってね』というメッセージを込められた日記を受け取った時、嬉しくて涙を流した。
思い返したことで、幸せが身を包む。
「可愛らしくて良いプレゼントね」
「ですよね! 私も一目で気に入っちゃいました」
日記の見た目は好みにピッタリ。使うのがもったいないと感じつつ、大事に使っていこうとも思える。
リリア様が気を遣って私から離れたので、日記のまだ真っ白なページに集中する。
王都に初めて来た時の感動や期待。幸先の良くない躓きからのリリア様との出会い。それから──。
日記のページに、一日の出来事や感じたことが、ゆっくりと流れるように書き綴られていく。
書き終えてノートを閉じる。心が落ち着き、また明日へと踏み出す準備が整ってくる。
こんな気持ちで日記を書けたのも、リリア様のおかげ。
リリア様がいなかったら、悲しい気持ちを抱えたまま嫌なことを記録していたかもしれない。もしくは、大事な日記に悲しい出来事を書きたくなくてページがずっと白いままだったかもしれない。
……かもじゃない。絶対にそうなっている。
リリア様と出逢ってから大した日数が経っていないのに、私の中でリリア様がどんどん大きな存在になっている。
リリア様は見た目だけじゃなくて、中身も優しくて温かくて魅力的。
あと、振り返ると会話の中で平民の私が敬語をちゃんと使えていない時もあったけど怒ったりしない。
考えれば考えるほど、私の方が受けてばかりでリリア様になにも返せていない事実を認識する。
今すぐにはムリでも、いつかはリリア様を助けたり出来るような人間になりたい。これから、もっと頑張ろう。
私が目標を立てていると、リリア様から不思議なことを聞かれた。
「少し聞いてもいい? セーブとロードって言葉に聞き覚えはあるかしら。それと、時間が巻き戻った感覚とか自分の能力が具体的に数値で把握できたりとか」
記憶を探ってみる。
セーブとロードは初めて聞いた。
時間の巻き戻り……確かデジャヴって言うんだっけ。そんな体験はしたことがない。
自分の能力についても把握できていなかったからこそ、光属性の適性を数か月前まで知らなかった。
「えっと……どれも思い当たりません」
「それならいいの。あと、話は変わるけど明日からの授業はついていけそう?」
「教会の日曜学校で学んでいたのでなんとか……。それに、入学が決まってからは魔術協会の方が孤児院まで来て色々と教えてくれました」
魔術協会から教えに来てくれたのは、年配の女性。
魔力の操作や魔法の発動とかについての知識と経験が豊富で、教え方が上手かった。
平民が利用する教会の日曜学校では魔法関係は教わらないから、知識ゼロからのスタートだった私でも入学までに簡単な応用まで学びきれた。
「そう。でも勉強で困った時はすぐに言ってちょうだい。遠慮はしないで頼ってね。私がリエルだけの先生になって力になるわ」
リリア様が先生に? しかも私だけの……。
☆ ☆ ☆
「リリア先生、どうしても知りたいことがあって……」
私が躊躇いがちに言うと、リリア先生のひんやりとした手が、私の手を握った。
「なんでも言ってみて」
「リリア先生のこと、もっと知りたいです」
いつもの薄い微笑みを私に向けてくれる。
「リエルが知りたいこと……いっぱい教えてあげる」
リリア先生がシャツのボタンを一つ外す。その動作がリズムよく続き、徐々に肌が見えてくる。最後のボタンを外すと、シャツの襟元を掴み、シュルリと肩から滑らせて脱ぎ捨てた。
「おいで」
☆ ☆ ☆
──はっ!?
つい、絶対に起きない都合の良い妄想に走ってしまった。
「はい! 頼りにさせてもらいます!」
後は寝るだけになり、リリア様から誘われる。
「リエル、一緒に寝ましょう」
リリア様が優しく微笑んでからベッドに入ると、私はその隣にそっと横たわった。心臓の鼓動が早くなり、リリア様の香りが私の鼻をくすぐる。リリア様の温もりがすぐそばに感じられ、私はますます緊張してしまった。
「おやすみなさい、リエル」
リリア様の声が優しく響く。私はリリア様がすぐ隣にいるという現実が信じられず、胸の高鳴りを抑えられなかった。
「おやすみなさい、リリア様」
リリア様が瞼を閉じて、そう経たない内に一定のリズムの呼吸音が聴こえてきた。
リリア様は夢の中に旅立っていた。
──私は眠れる気がしない。
昨日と違って意識がハッキリしているから、今の状況を意識してしまう。
リリア様と一つのベッドの上にいて、お揃いのネグリジェを着ている。どうしてもドキドキする。
それに、リリア様の寝顔は起きている時とは別の魅力がある。
カーテンの隙間から優しく差し込む月光を受けて煌めく銀髪。
聴いているだけで心地よくなる寝息。
穏やかな表情。
全て合わせて、幻想的な存在になっている。
その美しい寝顔を見つめると、胸が締め付けられるような感情が湧き上がってきた。
「リリア様……」
名前を小さく呟きながら、私は近づいた。
リリア様の寝顔は無防備で、まるで妖精か天使のように美しい。
私は魅力に抗えず、そっと距離を縮めて、唇が触れる寸前でハッと我に返った。
心の中で「そんなことをしたらダメ」と繰り返し、離れて息を整える。
自分の鼓動が落ち着くのを待ちながら、小さな声で謝罪する。
「ごめんなさい、リリア様」
リリア様の寝顔を見つめると、心の中で渦巻く感情を抑えることができない気がする。でも、背を向けたくない。
そんな想いから、視線を顔から下げる。
「わぁ……」
リリア様は身体を横にして、私に向けて寝ている。
むにゅっとおっぱいが合わさり、深い谷間があった。
青いネグリジェはおっぱいの大部分を透けさせている。
私は内心で興奮と緊張が入り混じった感情に襲われた。
ゴクリと思わず生唾を飲んだ。
絶対に柔らかい。
無防備でえっちな姿のリリア様が目の前にいる。
顔が熱くなってくる。否応なしに興奮する。
でも、信頼を裏切る行為なんて出来ない。
バレなくても朝には絶対に後悔する。
だから、寝顔と身体をいつまでも眺め続けた。
私は寝不足になった。
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