5話:悪役令嬢:よく眠れた夜

 夜が深まり寝る支度を考える頃、リエルが机に向かい、机の上に何かを置いた。

 原作プレイヤーの私には見覚えがあるピンク色のカバーがついた本のような物。


「それは……日記?」

「はい! 入学祝いで院長と子どもたちが一緒に選んでプレゼントしてくれたんです」


 プレゼントされた時のことを思い出したらしく、ニコニコと朗らかにしていた。


 原作のセーブとロード画面のデザインは日記がイメージされていた。

 それがリエルの日記と似ているが特別なアイテムには見えない。実は購入した日記が魔の遺物でした、という展開も流石に考えにくい。


「可愛らしくて良いプレゼントね」

「ですよね! 私も一目で気に入っちゃいました」


 日記の内容を見るなんてデリカシーのない行為はしないのでリエルの元から離れる。


 ただし、ゲームでセーブした時の効果音のようなシステム音声が聞こえたりしないか等に気を配ってみる。

 聞こえてくるのは、ペンが紙の上を滑る音とリエルの鼻歌。楽しさが伝わる音が部屋の静けさの中で心地よく響く。

 しばらく様子を見守り、不審な点もなくリエルが日記をつけ終える。リエルはほっとしたような、また安心したような表情を浮かべていた。


 せっかくだし、近寄ってどうしても気になっていたことを確認してみた。


「少し聞いてもいい? セーブとロードって言葉に聞き覚えはあるかしら。それと、時間が巻き戻った感覚とか自分の能力が具体的に数値で把握できたりとか」

「えっと……どれも思い当たりません」


 きょとんとした顔で、声色からも噓はついていない。

 リエルが認識できていないだけで存在はしている可能性はあるが、分からないなら無いのと一緒だ。

 ひとまず、ゲームが元のこの世界でも、ゲームだからこそのセーブとかステータス画面とかシステム部分は無いと仮定しておこう。


「それならいいの。あと、話は変わるけど明日からの授業はついていけそう?」

「教会の日曜学校で学んでいたのでなんとか……。それに、入学が決まってからは魔術協会の方が孤児院まで来て色々と教えてくれました」


 原作ゲームだと、初期ステータスは全て最低値になっていた。だからといって序盤の原作リエルがバカというわけではなかったし、勉強コマンドをすればするだけステータスの知力はちゃんと伸びていた。

 この世界のリエルも勉強しないように誘導したりしない限りは、成績不振からの生徒会入りイベントは起きなさそう。


「そう。でも勉強で困った時はすぐに言ってちょうだい。遠慮はしないで頼ってね。私がリエルだけの先生になって力になるわ」


 とはいえ、もしもリエルの成績が手遅れレベルに落ち込んだら私が困るので成績不振フラグは先に折っておく。


「……はい! 頼りにさせてもらいます!」



 会話後に寝る準備を済ませて、横になる。


「おやすみなさい、リエル」

「おやすみなさい、リリア様」


 リエルと顔を合わせて、おやすみの挨拶をして目を閉じる。

 昨日と同じように、穏やかな気持ちで意識が沈み込んでいく。

 誰かと一緒に寝るのが、こんなにも心落ち着くものだなんて知らなかった。

 そばにいるのが、リエルだからかもしれない。


 毎日これが続いて慣れ切ってしまうと、卒業後はしばらく一人で寝ることに苦労するかも。

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