2話:主人公:まさかの共同生活
学園への道のりは、私にとって全てが新鮮だった。
見慣れない街並み、煌びやかな建物、賑やかな通り、田舎町と比べると全てが夢の中にいるような気分。
でも私の視線が一番長く留まるのは、隣で歩くリリア様の姿。
リリア様は背筋をピンと伸ばし、堂々とした歩みで街を進んでいた。赤い瞳は前を見据えて、銀色の髪が風になびくたびに、光を受けてキラキラと輝く。その横顔はまるで彫刻のように美しくて、どこか神秘的な魅力を放っている。
こんなに綺麗な人が私の隣にいるなんて……。
私は心の中でそう呟きながら、一歩一歩を嚙み締めてリリア様に合わせて歩く。
頭から何も待たない手の指先まで本当に綺麗で……あれ? 荷物は?
「リリア様、手荷物はお持ちではないのですか?」
もしも私に声をかけたせいで広場に忘れたのならダッシュで私が取りに行こう。今すぐ。
「荷物はメイドのウルスが持っているわ」
リリア様の言葉に一安心する。
そっか。貴族ならメイドとかいるよね。
挨拶とかした方がいいかなと周りを見渡す。メイドらしい人が見つからない。実は真後ろにいたりして、と身体を少し捻って振り返る。やっぱりいない。
「どこみてやがる」
「ひゃっ!?」
思わず飛び跳ねる。いつの間にかメイド服を来た女性がそばにいた。この人がウルスさんかぁ。
金色の瞳は、狼のように鋭い。
燃えたぎる炎のような真っ赤な髪は、リリア様と同じく腰まで伸びている。長さは同じでも髪質は違っていて、狼の毛皮みたいにゴワゴワとしている。
胸は私よりは大きいくらい。つまり、通常サイズ。
全身の佇まいからは、どことなく圧を感じる。
メイドというよりは、一人の女戦士と表現できそうな人だった。主人を守るのも仕事だと聞くし、戦士でもあながち間違いじゃないかも。
ウルスさんは私を一瞥すると、ぶっきらぼうに言った。
「アタシはウルスだ。覚えたいなら勝手に覚えておけ」
反応的に私にあまり興味がなさそう。
改めて三人で歩いて、学園にたどり着いた。門番に入学許可証を見せて三人で中に入ると、すぐに案内係が二人やってきた。
生徒と使用人は別と言われたので、ウルスさんとはここでお別れ。最初はリリア様の部屋に案内された。
「こちらがリリア様の部屋になります」
チラッと見ただけでも広くて豪華な感じが凄かった。
「では、次にあなたが過ごす場所に案内します」
私の部屋はリリア様の部屋と近いと良いな。リリア様の部屋に遊びに行く方も、私の部屋に招待する方もしやすくなるし。リリア様ならどっちでも許してくれるはず、多分。
ささやかな期待を胸に抱いて案内されていると何故か外に出ていた。
「あの、寮の外に出ましたけど?」
「はい、こちらです」
頭に疑問符を浮かべながらついていく。やがて、古い小屋の前で案内人が足を止めた。
「ここがあなたの部屋です」
「えっ」
困惑しながらも小屋を観察する。
小屋は木造の小さな建物で、ところどころにひび割れが見える。苔が外壁に生えていて長いこと放置されていたことがうかがえる。
扉を開けて、室内を覗く。
割れた窓からはヒュウヒュウと音を立てて風が吹き込み、千切れたカーテンが揺れている。
壁にはペロンと剥がれている灰色の壁紙があった。
ベッドはシンプルな木製だけど明らかに傾いていた。
収納棚は板が外れており、棚としての機能性を失っていた。
学習机はなぜか焦げたような黒い炭がこびりついている。
ハッキリ言って廃墟レベルの小屋だった。ここで日常生活したくない気持ちしかない。
「私には寮の部屋はないんですか……?」
「ないです。あなたは予定外の入学者ですからね。部屋が空いてません」
私の入学が決まったのは数か月前だ。そう言われると何も言えない。
「一応の話ですが、改築の許可はあります。今からでも本校舎の受付であなたが望めば改築されますよ」
「じゃあ改善できるんですね!」
よかった。なんとかなりそうな気がしてきた。
「ですが、必要な費用はあなたが用意してください」
よくなかった。どうにもならない気がする。
「では、私はこれで。他にも仕事がありますので」
そそくさと案内人の人が去った。
私は小屋に視線を戻す。
「孤児院の方がずっと綺麗だったなぁ……」
孤児院は自治領から資金がちゃんと出ていて、町のみんなからのイメージに反して綺麗な造りだった。
「とりあえず掃除かな」
このまま部屋に入って荷物を広げたらホコリで汚れるのは間違いない。明日から着る綺麗な制服がいきなり残念なことになる。
よぉし、と覚悟したタイミングで思わぬ声がした。
「冗談でしょう? ここがあなたの部屋なの?」
「あっ、リリア様。いや、その……ハイ」
綺麗なリリア様に、私の汚い住処を見せてしまって恥ずかしい気持ちになった。
すると、リリア様は予想外の言葉を口にした。
「決めたわ。リエルをこんな場所で過ごさせるなんて許せない。私の部屋に来なさい。一緒に過ごしましょう」
一瞬、頭の中が真っ白になる。
リリア様と過ごす? 私が? リリア様の部屋で?
「私とリリア様が同じ部屋で暮らすって意味ですか……?」
「当たり前じゃない。他にどんな意味があるのかしら」
まさに地獄から天国に移る提案だった。
ただ、平民でお金があるわけでもない私を助けてリリア様にメリットがあるとは到底思えない。あるとしたら入学理由となった光属性の関係かも。リリア様が何かを私に求めているのなら、ちゃんと答えたい。
だから質問した。
「あの、どうしてそこまで私に気遣ってくれるんですか?」
リリア様が優しく微笑む。
「私があなたと仲良くなりたいからよ。だって初めて出来た大切な学友ですもの。リエルは私が相手だと嫌かしら?」
リリア様の言葉に嬉しさが胸いっぱいに広がり、目頭が熱くなる。
「嫌じゃありません! 私も……リリア様ともっとお近づきになりたいです」
「よかった。ルームメイトとしても、これからよろしくね」
差し出された手を、私は両手で包みこむように握った。リリア様の冷たい手の感触で心が弾んだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
リリア様は私を部屋まで案内すると、管理人に許可を取りに行った。
しばらくしてから戻って来て、二人でテーブルに座って話をした。
「ここに来ることになった経緯や住んでいた場所について聞いてもいいかしら」
「もちろんです!」
光属性の魔力で子供の怪我を治したことや孤児院の生活について話した。
私の町では孤児院暮らしの私たちや院長たちに偏見を持って口汚く言う人もいたけれど、リリア様は違った。
「素敵な人たちに囲まれて育ったのね」
幸せな思い出を共有できたことや、言われた言葉が嬉しくて心が温かい感情で満たされていった。
しばらく話していると、ウルスさんが作った夕食を持ってきてくれた。本人の雰囲気は乱雑そうなのに、意外にも丁寧な味付けと調理がされていた。
会話をしながら、ゆっくりと時間をかけて食事を終えて満足感に浸る。
ぽわぽわとした気分になっていると、リリア様が私に声をかけてきた。
「もう良い時間だから一緒にお風呂に行きましょう」
「そうですね。…………お風呂!?」
「リエルも長旅で汗をかいているでしょう?」
「はっ、はい!」
声がうわずった気がする。
お風呂ということは服を脱ぐわけで。つまりは既に何度も私が見惚れているリリア様の服の下が露になるわけで。リリア様の裸が視界に入るのは自然なことであって、不自然なく見れるというか。いや、全然、見たいとかじゃないです。嘘です。興味あります。
頭の中がゴチャゴチャしたまま足を動かしていると、広い脱衣所についた。
リリア様が隣で脱衣を始める。見ないようにしていても、衣類が脱がれる音が隣から耳に響くたびに、心臓がドキドキと高鳴った。
私は同世代の男女の裸体なんて見たことはない。
孤児院でお風呂に複数人で入ることはあっても、私よりもずっと年下の子供たちか年上で同性の院長だけ。
同じ年の人と歩いたのも食事をしたのも、リリア様が初めて。
だから、今も慣れていないことで緊張しているだけと自分に言い聞かせつつも、緊張が高まっていくのを感じた。
緊張で身体が固まる中、どうにか衣類を脱いでタオルをまく。見てはいけない気がして、リリア様に視線を向けないまま二人で大浴場に入る。
豪華な装飾と広々とした空間に圧倒されながらも煌びやかな大理石の浴室と、優雅に香るアロマの香りが私を包み込む。
タオルを外してお湯に浸かると温かさと心地よさに自然と体がほぐれていく。
「すごい……こんなお風呂、初めて」
リラックスした状態なら良いかも。
視線を動かす。
リリア様が優雅にタオルを外し、その美しい裸体が露わになる。銀髪がしっとりと肩にかかり、白い肌が湯気の中で輝いていた。
私は、その姿に思わず見とれてしまった。
心の中にはリリア様の美しさへの純粋な感嘆が広がっていた。
でも、その一方で自分の中に湧き上がる別の感情にも気づいていた。
しなやかな身体と大きなおっぱいが私の目に焼き付く。
視線は無意識にリリア様の胸元に固定され、その形や柔らかそうな肌に対する興味が膨らんでいく。私の心臓が早く鼓動し、顔が熱くなるのを感じた。
こんなこと、考えちゃダメだってわかってる。なのに、リリア様さんの体が凄くえっちで……。
「リリア様……本当に綺麗……」
私は自分の考えに戸惑いながらも、目をそらすことができなかった。リリア様の美しい裸体が、私の中に抑えきれない感情を引き起こしていた。
視線はリリア様の豊かな胸元から滑らかな腰の曲線、そしてその先へとゆっくりと移動していく。
リリア様の肌、こんなに白くて……触れたらどんな感じなんだろう……。
リリア様のおっぱいに顔をうずめたらどれだけ幸せなんだろう……。
私はその考えに驚きながらも、視線をリリア様から戻すことができなかった。もはや浴場の豪華な内装なんてどうでも良かった。
リリア様の体の一つ一つのラインが興奮を呼び起こしている。
「ありがとう。でも、あなたも魅力的よ」
リリア様の微笑みと言葉で、私の顔が少し熱を帯びる。自分の見た目に対してコンプレックスはない。それでもリリア様の美しさと比較してしまう自分もいた。
「そんな……私はまだまだです」
私はリリア様に微笑み返しながらもリリア様の体に対する興味と、自分の感情に対する戸惑いが渦巻いていた。
視線はリリア様の裸体に吸い寄せられ続けて、美しさと艶に心を揺さぶられる。
リリア様の大きなおっぱいが水面に揺れているのを見て、内心の興奮は増していくばかりだった。
私はのぼせた。
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