雲涙
藤泉都理
雲涙
国家としての正義に位置する人物(A)が単独作戦行動中に、背後から忍び寄った反政府組織に在籍する人物(B)から銃口を背中に押し付けられます。
AがBから銃を奪い制圧するも、Bの仲間(C)から不意をつかれて形勢逆転し、Aが死亡するまでを描いてください。
話中の経過時間は3分以内。
闇夜に紛れては凧に乗って反政府組織の建物の屋上へと密やかに降り立ち、見張りに吹き矢を放っては極短針を額に命中させ、寝かせて建物内と侵入。
竹槍が待ち構える落とし穴、転がり落ちてくる鉄球、高所から落下する囲い縄、床にばら撒かれていた巻き菱などの罠を搔い潜った一人の忍び。
反政府組織が開発したという生物兵器の情報収集、あわよくばその生物兵器の破棄を任務に課せられた忍びは、時にこの反政府組織建物で働く人物になりすまし、時に壁裏や床裏を這い回っては手にした情報を元に、生物兵器が格納されている部屋への侵入を果たしては、薄暗闇に包まれたその部屋にぽつんと怪しげに置かれていた白光色の机に置かれた、または、一つしかない引き出しに入っていた書類内容を片っ端から暗記。姿が見えない生物兵器の破棄は諦めて、この場を離れようとした時だった。
「そいつを見られたとあってはおまえを生きて帰すわけにはいかねえなあ」
「………」
忍びは背中に押し付けられた背中の銃口の感触から、高級で貴重な西洋式の銃よりも二回りも大きい形からして、この国で作られた竹筒銃と冷静に推測。
装弾数は一発、弾込めは非常に早くできるが攻撃力が低いがゆえに一発では死なず、とはいえ、二発続けて同じ個所に受けては命は危うい代物。
忍びはうっすらと笑った。
「部下共にこのような劣悪な銃だけしか配布できないとは。よほどこの政府は金に困っていると見える。いや。生物兵器さえあれば、この国の民など不要だと考えているようだな。どうだ?おまえ。今からでも遅くないぞ。俺たちに寝返れば命だけは助けてやるが?」
「ッハ。お断りだね」
「だろうな」
忍びは溜める事なく垂直に飛び跳ねては、一発目の竹筒銃の弾を回避。空中で素早く身体の向きを変え、二発目を放とうとする竹筒銃の銃口に口火に点火した特製尺玉を投げ入れれば、竹筒銃を破壊するばかりか、けたたましい音と光と煙が竹筒銃を持つ人間もこの部屋も襲いかかる。
「じゃあな。つってももう、おまえには何も聞こえていないだろうがな」
訓練を重ねたがゆえに微塵も特製尺玉の影響を受けない忍びは、ただ耳を強く押さえて蹲るしかない人間を横切り、この部屋から出て行こうとした。が。できなかった。
忍びは気が付けば、両腕両足を大きく広げられた状態で、壁に縫い留められていたのだ。
未だに続くけたたましい音と光と煙。誰かがこの部屋に入って来たとしても、この影響を受けないわけがない。竹筒銃から分かるように、ここに特製尺玉を防ぐ道具がない事も確認済みだ。そもそも、この部屋の扉は開かれてはいない。ずっと閉じたままだ。誰かが入ってきているわけではないのだ。では。そもそもこの部屋に居た。という事になる。
(いや。そもそもあそこで蹲っている人間もこの部屋の扉から入ってきたわけではない。音が全くしなかった。つまり。秘密の通路があったのだ。そこを通ってあの蹲っている人間も来た。そして、)
「おまえが生物兵器ってわけか」
忍び同様にこの悪影響下でも平然と佇んでいる人間に、自由に動かせる口から抜き取った歯を次から次へと弾き出しては、生物の急所となる額、目、鼻、顎、喉と続けざまに食い込ませる事に成功したのだが、何の効果もないようだった。忍びの歯を食い込ませたまま人間は平然と歩き出して、忍びとの距離を刻一刻と縮めていく。
「ばへもにょが、」
忍びが最期に見たのは、ただただ冷ややかに見つめている人間だった。
ただただ冷ややかに、涙を流す人間だった。
どんな死に方をしたのかすら、忍びには分からなかった。
「ああ。可哀想に。一気に年を取っちまって」
(2024.11.16)
雲涙 藤泉都理 @fujitori
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