9


「きよら、ドリア美味しい」

 その夜。こうくんはキッチンでわたしが作った出来立てのシーフードドリアをスプーンで食べる。


「ほんとう? 無理してない?」

 わたしは真向いの椅子に座ったままこうくんの顔を見つつ不安げに尋ねる。


「うん、俺の両親、飛行機で世界中飛び回ってて」

「お金振り込んでおいたから好きなもの食べな、が普通で」

「今まで俺の為に作ってくれる人いなかったからすごく嬉しい」



「作ってくれてありがとう」



 嬉しそうに笑うこうくんを見てわたしもつい嬉しくなる。



「こちらこそ、食べてくれてありがとう」



 お礼を言い、わたしもドリアを食べて、

 その後はふたりでゆったりと居間でくつろぎ、

 いつもはこうくんの気遣いでわたしが最初にシャワーを浴びるけど、今日はわたしの気遣いでこうくんが先にシャワーを浴びる。


 あ、こうくん、バスタオル、ソファーに忘れてる!


 わたしはタオルを手に取り、居間から洗面所まで歩いて行く。


こうくん」


 名前を呼び、そのままガラッと洗面所の扉を開ける。


「バスタオル、カゴに入れておく」

「ね…………」


 髪が少し濡れ、

 着替え前のかっこいいジャージズボンを穿き、

 少し筋肉質な上半身だけが露になったこうくんと目が合う。


「とりあえず服着てバスタオル取りに行こうかと……」


 服着る途中だったんだ……。


「……あ、さ、先走って、ごめんなさい!」


「いいよ。バスタオル、もらっていいか?」


「ど、どうぞ」

「じゃあ、わたし、すぐ出てくね」


 わたしはそう言って背を向ける。

 するとこうくんはわたしの体を後ろからバスタオルで包み込み、そのままぎゅっと抱き締める。

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