やがて炎は消える

 僕が彼に形を貰ってから、四度目の芽吹きの季節がきた。

 梟がいなくなってからしばらく森は騒がしくなっていたけれど、僕が梟と同じ役割を持ったのだと知れ渡ったのか、今ではほとんど何も起こらない。

 たまに、何も知らずにやってくるものはあるけれど、僕の姿を見るとだいたいは脅えて逃げだした。ひとつ、僕に懐いて後をついて歩くものがいたけれど、それは多分、梟にとっての僕だったのだろう。

 僕は時々、どうやっても逃げていかない魔物や魔獣を殺しては、それに分けてやった。

 彼は、今も時々森にやってくる。あてもなく彷徨うのではなく、僕に会うために。僕の首の後ろを優しく撫でる彼はいつも穏やかな顔をしていて、僕はそれを見るのが何よりも好きだった。

 けれど、今日の彼はどこか浮かない顔をしている。心配事か、悩みごとでもあるのかもしれない。けれど僕は、まだ彼の言葉を喋ることはできなかった。代わりに頬を摺り寄せる。角で彼を傷つけないように、恐る恐る。彼は少し驚いたように息を呑んで、そして小さく息を吐いた。無理に笑顔を作ろうとしたのか、表情はぎこちない。

「ふふ……ありがとう。ごめんね、折角君といるのに、僕は……」

 ごめんね、と、彼はもう一度呟いた。僕にその理由は分からなくて、余計に彼のことが心配になった。それでも、僕の喉から人間の言葉は出てこない。無理はしないでと言う代わりに、ぶるる、と息が漏れただけだ。

 また日が暮れて、彼を町の壁まで送っていく。すっかり馴染んだ道のりで、けれどそれだけに、彼の違いがよく分かった。日暮れの薄暗い森の中でも分かるほど、彼の頬は青褪めている。瞳には硬い覚悟の光が灯っている。いったい、彼はなにを考えているのだろう。

 いつもの場所で僕は立ち止まる。彼は、いつも通り少しだけ僕から離れて、体ごと振り返る。

「それじゃあね」

 柔らかく微笑んで見せた彼は、いつものようにまたね、と言わなかった。

 不安になって僕は、一歩踏み出そうとした。けれどそれが分かったのだろう。彼は一言、だめだよ、と言う。

 それだけで僕は動けなくなる。僕にとって彼は絶対だった。彼の言葉は絶対だった。逆らうことなんて考えたこともないけれど、もしそうしたなら、僕はきっとこの形を失って、生まれたところへ還ることになるだろう。

 形を失うことは怖くない。けれど、二度と彼に会えなくなることだけはきっと耐えられない。僕はその場に立ち尽くして、彼が町に帰っていくのを見送った。

 それにしても。

 今日のこの町はもう夕暮れだというのにやけに明るい。

 まるで町中で焚火でもしているみたいだった。この町の人たちはみんな、夜になると眠って、朝になると起き出す、自然の生き物と同じような暮らしをしている。

 枯れの季節に一晩だけ、こんな風に朝も夜も関係なく火を焚いて騒ぐことがあるのは知っていたけれど、今はそんな季節じゃない。

 何かがおかしい。変だ。僕は、彼が帰るはずの塔を見た。

 彼が帰るとき、塔には明かりが灯る。

 だから長い階段を上る彼の影が、小さな窓から見える。そのはずだった。

 彼の影は見えない。それもそのはずだ。そもそも明かりが灯っていない。いよいよ僕の核はうるさく騒ぎ始めた。

 僕はこっそりと、壁へと跳び上がる。建物の陰に隠れて、壁の中の町を覗き見た。

 ――彼が、いた。

 町の真ん中には広場がある。その真ん中で、大きな火が燃えている。大きな釜の中で、炎が踊っている。あの釜は、枯れの季節の一晩騒ぎのときにスープを作るものだったはずだ。彼はそう言っていた。とてもいいにおいがするのだと、嬉しそうに。

 彼は、今その釜に自ら飛び込むとでもいうかのように、設えられた台の上に立っている。

 その瞼は閉じられている。彼は見たこともない、真っ白な服を纏っている。さっき着ていたものではない。手は祈りの形に組まれて、縄で縛られていた。

 釜と彼とを遠巻きに、麦酒片手に、あるいは間近で見ようとしているのは、この町の人間だ。

「これで本当に大丈夫なのかねぇ」

「違いないさ。都市から来た方が仰るんだ。贄を捧げれば永劫守られるだなんて、結構じゃないか」

「じゃあ今までは間違ってたってことかい? よく無事だったよなあ」

「そりゃあおまえ、神様が温情をくだすってたんだろ。今回アレを捧げるだけで許してもらえるんだ。有難く思わねえと」

 囁きを交わす声が聞こえる。僕の核は、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに静まり返っていた。ふつ、ふつと、なにかが内側で沸いている。彼は未だ、瞳を閉じたまま立っている。

 人の声が止んだ。彼の隣に、肥え太った人間が一人、立つ。

「信徒諸君、よく集まってくれました」

 よく通る声で、その人間は告げる。

「今回、このような結果になってしまったことは非常に残念なことです。あなた方は過ちの神を信じ、真なる神を蔑にしてしまった。

 ですが、恐れることはありません。ここにあるのは、過ちの神より齎されたもの。

 これを真なる神に清め捧げることで、あなた方は赦されるでしょう!」

 町の人間がざわざわと騒ぐ。彼は、その音で目覚めたように目を開いた。

 そこに、驚きも、恐怖も、落胆もない。彼はただ、燃え盛る炎を眺め、取り囲む人々を眺め、そしてついさっきまで、僕と共にいた森を眺め、少し寂しそうに笑って、口を開いた。

「私の命は、もとより、神に捧げられるべきもの」

 僕は、ぞっとした。

「皆の為、炎にくべられ、神の御許で永遠に過ごすこと――喜びこそすれ、悔やみはしません」

 それは彼の声ではなかった。少なくとも、僕の知る彼の声はもっと美しい響きだった。

 この言葉は、なにか酷いものだ。彼の命だけでなく、こころや魂までも僕から奪い去るものだ。僕の内側でなにかが燃えている。沸き立ったなにかが、ごうごうと音を立てて燃えている。

 釜の中の炎は僕ではない。

 僕ではないけれど、僕の内側には間違いなくあの炎と同じものがあった。あれは。

「では信徒諸君、尊き贄に祈りを」

 僕の故郷に、彼を堕とすものだ。


「――――――――――――――――――――――――!」


 祈りの声は轟音に掻き消される。

 僕の喉から出た音は、この地上に生きるものではありえない音だった。

 誰もが祈りの手を解き、咄嗟に自分の耳を庇う。

 それができなかった彼は、呆然と、あるいは愕然と、僕の方を見ていた。

「……どうして……っ」

 それは、僕の方が聞きたかった。彼が願ってくれさえすれば、僕は彼を護ることができた。あんな呪いの言葉を、彼の口から聞くこともなかった。手近にあった塔に僕は駆け上がる。彼が住んでいた場所。彼の、帰るべき場所。今ではもう、憎くて仕方がない。これさえなければ、彼はもっと自由に生きていられたはずだ。僕に出会うこともなく、炎にくべられるような真似なんてせずに済んだはずだ。

「なんだ、あれは!」

「おお、神の遣いだ……! 純白の一角獣だ!」

「いや、違う! あれはただの獣だ! だが角は高く売れるぞ! 捕まえろ!」

 人間たちが何かを口々に叫んでいる。馬鹿馬鹿しい。何が神だ。何が贄だ。

 僕には彼さえいればよかった。彼がいたから、僕はこの町を守ろうと思えた。すべては彼のためだ。彼を殺して生き延びようとするなら、そんなものはみんないなくなってしまえばいい。

 僕は塔の屋根を蹴って跳んだ。足元で何かが崩れる。どこか遠くで悲鳴が上がる。

 目指すのは彼のところだ。彼を守らなくてはいけない。あの炎から、少しでも離れたところへ。間違いなく、僕は台の上へ降りた。衝撃で雷のような音がする。はて、僕はそこまで重かっただろうか。

 肥え太った男は、息を詰めて僕を見ている。化け物を見る目だった。

 違いない。僕は確かに化け物だった。彼に形を貰うまで、形すら持たない塵のようなものだった。

 対して彼が僕に向ける目は、森で一緒にいたときと何も変わらない。僕は心底それに安堵して、彼の手を縛る縄を角で切った。見れば、足も一括りにされている。僕は少し悩んで、彼を背中に無理やり乗せた。こんなところにいつまでもいさせるわけにはいかない。僕はもう一度、肥え太った男を見た。ひっ、と小さく声を上げ、男はその場にへたり込む。僕は足場を蹴って、森を目指した。初めて彼が僕に触れてくれた泉へ。

 森を抜けて、泉に着いた時には彼は気を失っていた。泉のほとり、人一人なら入れる洞窟に彼を寝かせて、足の縄も切る。その合間、水面がぽつりと揺れた。

 波打った水面から現れた一匹の水霊がこちらを見ている。彼とも最近顔見知りになったそれは、火の粉で所々焦げた服と、煤で汚れた顔を見て、それから僕を探るような目で見た。

 しばらく視線のやり取りが続いたが、水霊はふるふると首を振ると、大きく跳び上がって宙を舞った。跳ね上げた水滴が月光に反射して輝く。水滴は彼にも降り注ぎ、すっと消えていった。

『火にあたりすぎて、あつくなってたよ』

 鈴のような声が響いて、僕はそれがこの水霊の声だと分かった。

『わたしがこのひと、まもってるね』

 僕は水霊に頷いた。そして、町に向かって駆け出す。僕は彼のためにも、僕の内側で燃える炎を治めるために行かなければならなかった。

 森を一足で飛び越える。町では人間が、倒れた塔を片付けようと躍起になっていた。

 肥え太った男は、まだそこにいた。燃え盛る釜に臨む台の上に、まだ。

 僕は、僕の内側の炎が一層激しく燃えているように感じた。これを治めなければならない。そうしなければ、彼は焼かれてしまう。彼の魂はまだ、この炎に呼ばれ続けている。すっかり贄を受け入れる気になった炎は、もともと捧げられる予定だった魂と同じだけのものを与えなければ静まらない。

 果たして彼と同じだけの存在はここにあるだろうか。

 この肥え太ったひとりでは、到底足りないはずだけど。

 まず僕は一人ずつ、炎に魂をくれてやった。全員まとめてだと彼が悲しむかもしれないので、肥え太った男と、それを守ろうとして武器を手に取った奴から、片っ端に。

 とうとうそういう奴もいなくなったので、近くにいた誰かの魂をもう一人分投げ入れようとしたとき、子供の泣きわめく声が聞こえた。おとうさん。と。見れば僕が取ったのは、子供を庇おうとして駆け出した男のものだった。なんとなく見覚えがあったので、その魂は戻しておいた。ちょうど、炎が収まってきたからでもある。肥え太った男の抜け殻と、そのほかの抜け殻は、まとめて残った炎にくべておいた。

 この大釜はもう使えなくなるだろうけれど、仕方がない。

 彼を焼くために使われかけたものなんて、永劫使えない方がいい。

 炎は消えて、僕の核が再び静かに音を刻み始めた。

 改めて見ると、ひどい有様だ。彼の住処だった塔は真っ二つに折れ、何人か生き埋めになっているようだった。力のある若者たちはそれを助けようと懸命になっていて、子供たちは脅えてずっと泣いている。女たちは農具を構えて、子供を守ろうとしている。男たちはすっかり錆びてしまった剣や槍を持ち出して、僕を囲んでいる。

 これが全部、僕のしたことだった。そしてその結果だった。

「この、化け物!」

 一人の男が叫んだ。突き出された槍の先に、僕は思わず後退る。

「聖者様をどこに連れて行ったんだ!」

「まさか聖者様を喰ったんじゃないだろうな!」

 殺せ、殺してしまえ、そんな声の合唱。

 聖者というのは、多分彼の事だろう。僕が彼を食べたりするわけがなかったけれど、人間には分からないことだ。

 どの瞳も憎悪に燃えている。一度は炎に焼かせようとした彼の事を想って、この人たちは僕に刃を向けている。なんだか、よく分からない。分からないことは、考えないのがいちばんだ。

 さてそうしたとき僕に残っているのは、なにが一番、彼のためになるだろうということだった。

 僕は彼のためならなんだってできる。

 だけれど、彼の命を救うことができた僕に、今彼にできることは、一体何だろう。

 僕は周りを見る。

 崩れた塔の下敷きになっている人間の手が見えた。

 何人もが必死になって助けようとしている。

 だけど、人の力ではとても動かせない瓦礫の山だ。

 僕は僕を囲む男たちの頭を飛び越えて、崩れた塔の近くへ降りた。ぎょっとした様子で若者の一人が僕を見る。何を思ったのかは、分からない。

 けれど僕が隣に立っても、すぐに手元へ視線を戻して瓦礫をどける手を止めなかった。

 僕は少し、考えた。もし彼が、本当に何もかも投げ捨てて逃げたいと望むなら僕はそうしただろう。たった一言でも、彼が僕に零してくれていれば、彼の本心がどうだろうと僕は彼を連れてどこへでも駆けて行けた。

 彼は僕を撫でながら、いろんなことを話してくれた。枯れの季節の、おまつりというもの。そこで煮炊きするスープの香り。芽吹きの季節に生まれた猫の事。隣町から来たおかしな二人組の話。彼があの塔の中で何を感じ、どんなことを思い、考えていたのか。彼はなんだって話してくれた。そこから伝わってくるのは、彼が心底、僕が彼を想うのと同じくらいに、この町と、そこに住んでいる人たちが好きなのだということだった。

 だから彼は火にくべられようとした。僕に助けを求めることなく。

 おい、と背後で声がする。化け物から離れろと、誰かが誰かに叫んでいる。

 それはきっと、僕の隣で必死になって瓦礫をどけようとしている若者に向けてだ。

 だけれどこの若者は声に耳を貸さない。血の気の失せた、瓦礫から突き出た腕に、その持ち主に呼びかけている。今助けるから、だから頑張れ、頑張れ!

 人間の手は脆い。瓦礫の硬さに負けて、その手はもう傷だらけだ。

 この人たちも僕と同じだった。自分のことより、誰かのことが大切なのだ。

 倒れた塔と地面の間に隙間がないか探した。

 僕の形は彼に貰った。素晴らしい形だと梟は言った。

 僕は、彼に報いなければいけない。僕は彼のしたかったことを成さなければいけない。

 見つけた隙間に体を潜り込ませる。まだ形のなかったころ、暴れる魔物に脅えて隠れた穴を思い出す。

 四肢に力が漲る。僕には形がある。僕の核が激しく音を立てる。僕には彼にもらった形がある。背中に硬く、重いものがずしりと食い込む。ぎりぎり、ごりごり、背中が押しつぶされそうだ。喉の奥から唸り声が漏れた。

 慌てたように、どこかで声がする。急げ!と。早く!と。声の方に目をやる。塔の下敷きになっていた人たちが、助け出されていく。信じられない、という目で僕を見る人がいる。こっちだ!と誰かが言っている。僕に向けて、言っている。その人は、一番近い壁を指さしている。そこに塔をひっかければいいのだ。たぶん、そういうことなんだろう。

 誰も巻き込まないように、僕は崩れた塔を動かして、壁にもたれさせた。

 ああ、と、誰かが泣き崩れる。やっぱり神の遣いだ。あの獣は聖者様を救おうとしてくれたんだ。そんな風に声が沸く。僕はまた、周りを見た。何人もの人が怪我をして倒れている。その中に二人、倒れたまま動かない人がいた。息はまだある。だけれど、これはきっと時間の問題だった。このままでは死んでしまう。歩いてちかづいた。

 僕は倒れた人の襟首をぐい、と口で引っ張って、背中に乗せた。ぐちゃり、と音がする。背中がひどく痛んだ。もう一人、乗せる。それ以上は乗せられない。急がなきゃならない人だけ乗せて、僕は走った。

 彼と過ごした森を駆ける。僕の故郷に近い暗闇は、いつもなら心地いいものだ。けれど今は、怖い。この背中に乗せた人たちの気配が、だんだんと引きずられて薄くなっていくのが恐ろしい。僕は急いで駆けた。水霊のいる泉に着いたとき、心のそこからほっとして、僕はふらりとよろけてしまった。

『チビすけ。だいじょうぶ? わるいことされたの?』

 水面が波打って、水霊がゆらりと顔を出す。彼を頼んだのとはまた別の水霊で、こっちの方が長くここにいる。僕のことも、まだ形がないころから知っている。梟と同じ呼び方で僕を呼ぶので、とてもわかりやすい。

 僕は首を振った。水霊は僕の背中にいる人間を見て、顔をしかめた。死に近いことが分かっているようだった。

『なおすの?』

 僕は頷いた。

『あんたからもらうよ。それでもいい?』

 僕はまた頷いた。もらう、というのはいのちの力のことだ。水霊には傷を癒す力があるけれど、そのためには誰かのいのちの力が必要で、それを僕から取っていくということだった。人間と僕とでは、持っているいのちの力には大きな差がある。大丈夫。僕は大丈夫だ。

『わかった。そこにおろして。あんたもあとでなおしてやるからそこでまってて。……神聖なるもののとこに行くなら、べつにいいけど』

 そう言ったきり、水霊は水を跳ね上げて消えた。僕が乗せてきた二人は、少しずつ頬に赤みがさしてきて、いのちの気配もしっかりと、濃くなってきていた。

 よかった。ほっとしたら力が抜けて、僕はその場に座り込んでしまった。なんだか、力が入らない。

 おかしいなあ、と、僕は思う。もうじき夜が明ける。白み始めた空を見上げる。僕は水霊のいったように、早く彼に会いたかった。彼の無事を見たかった。

 あの水霊は彼に、僕と同じように形をもらったのだから、決して悪いようにはしないと分かっているけれど。彼の目覚めるときには、僕が傍にいたかった。彼に喜んでもらいたかった。ああ、でも喜んでもらうのは難しいかもしれない。僕は人間を殺したから。

 早く、僕は彼のところへ走ってでもいきたいのに、なぜか、もうここで目を閉じてしまいたくもあった。

 どこかで梟が鳴いている。森は静まり返っている。

 僕は初めて、眠いと思った。ずっと森にいたけれど、眠る獣や鳥を見たことはあったけれど、僕がそうなるのは初めてだった。

 草を踏み分ける音が聞こえる。懐かしい音だ。長い間聞いていなかった音だ。彼の、足音だ。ああ、でも、それはそこまで昔のことじゃなかった気がする。いつだったか、もっと近かった気もする。夜は明けていくはずなのに、僕の視界は故郷の暗闇へと戻っていく。

 誰かの声がする。誰かを呼んでいる。いったい誰だろう。ああ、いや、そんなことはどうでもいいんだ。

 僕は、ただ彼に会いたい。

 そう願った僕の喉から、初めて生き物らしい音が零れた。

 彼の優しい腕が、僕を抱きとめてくれたような気がした。

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