第4話 成長魔法で魔物討伐
半日くらいかけて、レンガを並べ終えた。隙間を埋めるように土魔法で作った砂を手分けしてかけてもらう。
こういう作業は新鮮らしく、領民達はとても張り切っている。ぼくも、領民達に負けずと砂を大量に作った。
それでも、足りず、フィルが砂作りを手伝ってくれた。
「エレが早く早くとずっとせかしてくる」
「エンジェリア姫、とても楽しそうですよね」
領民達もそうだけど、誰よりも楽しそうにやっているのがエンジェリア。こういうのが好きなのか、とても楽しそうにやっていて、周りが和んでいる。
時々、わざとなのか、本当に気づかずになのか、しゃがんでいるゼロに砂をかけているけど。
「そういえば、エレが何か要望があるらしい。エレ以外にも何人か、エレと同じ要望があると言っていた」
「分かりました。これが終わったら聞いてきます」
「これ、どれくらい作れば良い?」
「もう少し作らないとだと思います」
「……領民の信用レベルアップ、道具を解禁します」
気のせいではないと思う。フィルが面倒くさくなって、道具解禁しだしている。
筒状になっている、魔法具だろうか。フィルが、収納袋から取り出した。
「成長魔法をと土魔法を同時に使えば、砂を量産できる魔法具解禁です」
「ありがとうございます」
魔法具をもらって、使ってみると、なかった時よりも、何倍も早い。これならすぐにでも終わりそうだ。
しかも、これのおかげで、エンジェリアの足りない急かしは来なくなった。
砂を作り終えたら、ぼくも砂かけに参加する。と思いきや、参加しようとすると、エンジェリアが「しゃーしゃー」と威嚇して参加できない。
自分の取り分が減るからぼくに手伝わせたくないみたい。
「ホッホ、領主様、暇でしたら、我々の要望をお聞き願えないかね?」
「はい」
「畑を作りたいんですよ。姫から赤い種の作り方を聞いて、姫特性栄養ドリンクの素材を作ってください」
エンジェリア、今は声をかけづらい。何度も砂埋めに参加しようとしていたら、見るだけで威嚇されるようになったから。
近づける状態じゃない。
他に知っていそうな人がいれば良いんだけど。
フィルに聞いてみよう。
「フィル、赤い種の作り方って知っていますか?」
「それならフォルが知っている」
「ありがとうございます」
「フォルを探しに行くなら、ついでに今日の夕飯になりそうなものの採取を頼んできて欲しい」
「分かりました」
ここには、食材になりそうなものなんてない。きっと、毎日どこかで採取をしているんだろう。
ぼくは、フォルを探しに向かった。
**********
淡く光る蝶。光る花々。儚く幻想的な場所。領地の近くに、こんな場所があったなんて。
そこにフォルがいた。何の用でここへ来ていたんだろうか。
「フォル」
「ん?ああ、チェルドか。どうかした?」
転生前、蝶華は、黒さもあったけど、柔らかく穏やかで、良く笑っていた。
転生後も、それは変わらなかった。あの本でも、そんな感じだ。
でも、今目の前にいるフォルは、ぼくの知っているフォルではないみたい。
重く、冷たく、凍えそうな空気を纏っている。そんな感じ。近寄りがたく、話す事を躊躇う。
「……その、赤い種の作り方を知りたくて」
「あれか。あれは生命魔法で作る特殊な種だから作れないよ。似たものなら別だけど、それでも良いかな?」
「はい」
「それなら……そうだ。これあげるよ。これは、種を量産してくれる植物なんだ。これを成長魔法で育てて。黒い種が必ず一つ以上出てくるから、それをまた育てれば、種が育つ」
十ミリくらいの黒い種。これで、エンジェリア特性栄養ドリンクを作ってもらえる。
そういえば、信用レベル上がったから、エンジェリアが作ってくれる薬が増えているかもしれない。簡単に知る事のできる方法があれば良いんだけど。
「どうかした?」
「えっと、現在できるものを見れる何かがあれば良いなと思いまして」
「……良いよ。交換条件だ。今から、食料採取する予定だけど、一人じゃ遅くなるから手伝って」
「はい。食料採取はここで行うんですか?」
見た感じ、ここはかなり豊かな土地。食料も確保できると思う。でも、普通の植物は生えていない。
食べれる植物がなさそう。
「うん。ここは植物も魔物も豊富なんだ」
「魔物?魔物を食料にするんですか?」
「うん。龍の子は、特殊な土地で暮らして、魔物を使った料理が主食だ。食べれなくはないよ」
あの本にはなかった情報だ。
魔物は浄化魔法を使わなければ消えないとあの本に書いてあった。浄化魔法を使わない方法での討伐をしなければならないだろう。
「これとか食べれるから摂っていくよ」
「はい」
茶色い花。なんだか、唐揚げみたい。お腹空いていてそう見えるのかな。そんな事はないか。この世界に来てから、そんな感覚味わった事ない。
眠いとか、疲れたとかそういうのはあるけど、食事は正直、回復のために食べるみたいな感じ。お腹空いたからという事はない。
あの本には、魔力がエネルギーの代わりになっているから、空腹を感じる事は少ないと書いてあった。食事は魔力の回復をしてくれるとも。
甘いものとかは、魔力吸収量を上げてくれるらしい。
だから、唐揚げに見えるのは、幻覚とかじゃなくて、本当に似ているだけだと思う。
「……面倒だな」
「どうかしたんですか?」
「魔物。かなり凶暴な。魔法使いすぎると怒られるのに……チェルドにやらせるか。防御魔法だけは使ってあげるよ」
あの本にも、フォルは魔法の私用を避けている描写が何度もあった。その理由まではなかったけど。
前にエンジェリアと一緒の時にいた魔物は、囮になってもらっていたからどうにかできた。でも、今度はそれはない。
ぼくにできるか不安がある。
「……この種使って」
「ありがとうございます」
緑色の種。何の種かは分からないけど、役に立つ種だろう。
真っ黒い、三メートルくらいありそうな魔物だ。ぼくの目線では、足しか見えない。上を見ても、顔を見ようとすると首が痛くなりそう。
今回の魔物は、全身が毛で覆われている。エンジェリアからもらった短剣では、この毛を斬るくらいしかできなさそう。
前みたく、短剣を成長させて長くすれば届くだろうか。やってみる価値はありそうだ。
ぼくは、魔物の足に短剣を突き刺した。そのまま成長魔法を使う。
ポキッと甲高い音が聞こえた。まさかとは思い短剣を抜くと、真っ二つに折れていた。
魔物の足が、勢い良くぼくの手前までくる。そこで止まった。目には見えない防御壁があるんだろう。
短剣以外に持っているものは、さっきもらった緑色の種。ぼくは、それを魔物に投げて成長魔法を使った。
緑色の種が成長して、茎が魔物に絡め付く。
この間に何か方法を考えよう。できるだけ早く、見つけないと。
「……」
ふと、ぼくの近くの地面を見た。そこには、明らかに危なそうな刃がついている植物がある。小さく柔らかいから、害はないけど、これを成長させれば、強力な武器になるかもしれない。
ぼくは、近くにある植物に成長魔法を使った。魔物に巻き付くように。
成長した植物の刃が、魔物の毛を貫通する。
「ゴォォォォォ」
魔物は断末魔を上げて倒れた。これで、討伐完了で良いだろう。
「お疲れ様。これでしばらくは食料採取に行かなくてすみそうだ。感謝するよ」
「フォルの防御魔法と種のおかげです」
「五歳児としては上的なんじゃないの?普通の五歳児は魔物討伐なんてできないから」
普通の五歳児どころか、普通の人は魔物討伐を少人数で行うなんてできない。魔物一体に対して、武器を持った人が二百人。それで半分以上犠牲を出してどうにか、討伐できるとあの本に書いてあった。
こっちに来て五年。そんな感じの事をみんな話していた。だから、これは確定の事実で良いと思う。
フォルは、祈りを捧げるようなポーズをした後、魔物の肉を収納袋に入れている。
あの本に、収納袋は限度があると書いてあったけど、どこまで入るんだろうか。知っておいて損はないと思う。
「ふぅ、これで良いかな。帰ろっか」
「はい」
これは、本日の最難関クエストかもしれない。まだ、一日終わってはいないけど。
**********
帰ってくると、水撒きまで終わっている。これで、道の整備クエストも終了かな。
「皆様、協力ありがとうございます。おかげさまで、レンガ道ができました」
「礼を言うのは私共です。正直、まだ完全に信用できてはいませんが、我々の事をここまで考えてくださって、本当に感謝しております」
「……チェルド、名ばかりで、そんな感情はなにひとちゅないけど、こんやくちゃのエレをもっと褒めるのー」
「ハッハッハ、領主様も大変なお方に懐かれたもので」
真面目な話の中でも、エンジェリアはこうして一人、空気を読まない行動と言動ばかりとる。
高校卒業前もそうだったかな。
「えっと、手伝ってくれてありがとうございます」
「……フォル、お手本」
「良く頑張ったね、お姫様」
「みゅ」
あの本の中のチェリルドもこういう事を日常的にされていたんだろうか。もしそうなら、その時チェリルドはどんな対応をしていたんだろうか。
あの本にはそれは書かれていなかった気がする。長くて、覚えていないだけかもしれないけど。
「……チェルドもやれなの」
「えっと、良く頑張ったね?」
「ふにゅ。じゃあ、これぷれじぇんと。おにぃちゃんがちゅくって、エレが設定ちたの」
あの本に書いてあった。魔法機械というものだと思う。
魔法具との違いは、処理能力と作りにあるらしい。
魔法機械は、使える人が限られていて、ぼくの家にはなかった。値段は高いけど、それはあの家では関係ないと思う。
転生前に使っていた機械に似ているから、その知識を駆使すれば、ぼくは使えそう。
「ありがとうございます」
「ぷにゅぷにゅ。それじゃあ、エレ達のよぉぼぉも頑張ってね。エレは、エレエレちょうてんで待ってるー」
行っちゃった。なんだろう。嵐みたい。
さて、次のクエストとへといこう。
種はどこに植えよう。できれば邪魔にならない場所が良いけど、良い場所はないかな。
「フォル、種を植えるのに良い場所って」
「可愛いお姫様の店の裏に花壇があるからそこ使って良いよ」
「ありがとうございます。早速植えてきます」
「……手、怪我してる」
「えっ、あっ、本当だ。あの植物で切ったんでしょうか」
気づかなかった。ほっといても良いけど、五歳児の身体だから、何かあった時が大変。とりあえず、応急処置だけでもしておいた方が良いかも。
「……今回は、サービスだ。元はと言えば、僕が誘ったのが原因だから」
癒し魔法。あの本に書かれていた。回復魔法の上位互換。回復魔法自体使える人が限られている。癒し魔法ならばもっと珍しい。
あの本の中では、エンジェリアとフォルが時々使っていた気がする。その辺はあまり覚えていないけど。
傷が、元からなかったかのように綺麗に治った。
フォルは、ぼくがさっきあの幻想的な場所に来て以来、ずっと無表情で何考えているか分からない。
でも、こういう優しさは、昔と変わらない。
「ありがとうございます」
「僕はゼロを甘やかさないといけないから」
避けられているかもしれない。そう思うような理由を言ってフォルは、ゼロを探しに行った。
ぼくは、エレエレ商店の裏にある花壇に向かった。
何も植えられていない花壇。そこに、黒い種を植えた。
成長魔法を使って、赤い種を収穫する。
赤い種で、エンジェリア特性栄養ドリンクの素材を作る。
今作れる数は、九個。このくらいあれば、畑もできるかもしれない。
ぼくは、成長魔法で育てた植物をエンジェリアに持っていった。
「エレエレちょうてんへようこちょ」
「えっと、エレ特性栄養ドリンクを作って欲しいです」
「わかりまちた。ちょうちょうお待ちくだちゃい」
エンジェリアは、すぐにエンジェリア特性栄養ドリンクの制作へ取り掛かった。
「ふみゅ、こちらでお待ちくだちゃい」
「はい」
エンジェリアに椅子に座るように促されて、座った。
九本も作らないといけないんだ。時間がかかるだろう。
ぼくは、魔法機械を起動した。
現在の信用レベル三。現在支給できるもので興味があるのがいくつかある。
エンジェリア特性栄養ドリンクレベル二が気になる。素材が一つ増える分作れる量は少し減るかもしれないけど、効果が高くなるみたい。
他は、収納袋レベル二とか。レベルが増える毎に入れられる量が増えるみたい。
あと、回復薬も出てる。建築の種も購入可能。購入には、エレエレポイントというものを使うらしい。エンジェリアへの貢献度でポイントが付与されるとあるけど、何をすれば良いかは分からない。
とりあえず、今は百ポイント。建築の種は、一つ五十ポイント。これなら二つ買える。子供もいるから、学校とか作りたい。それに療養所も。
でも、先に宿泊施設かな。一人一人が使えるスペースが少ないから。
この二つの種は宿泊施設に使おう。
転生前の通販みたい。買い方が。
「ふみゅ、建築の種ふたちゅなの」
「ありがとうございます」
「ちけちゅが増えれば武器とかもちゅくれるの」
「考えときます」
いつかは必ず必要になる。でも、今は他のところに使わないとだから。
そういえば、貯蓄できる倉庫も欲しいかもしれない。もう一つ買えるポイントがあれば良いけど、どうすれば増えるんだろう。
「……なで」
撫でて欲しいみたい。とりあえず、エンジェリアの頭を撫でてみる。星音も、これが好きだったから。
「……まんじょく」
エンジェリアの満足でなのだろうか。エレエレポイントが増えてる。というか、今気づいたけど他のポイントもある。
今分かる範囲だと、エレエレポイントは種とか薬買える。ゼロゼロポイントは武器とかアクセサリーとか買える。フォルフォルポイントは本とか特殊な種とか買える。フィルフィルポイントは魔法具とか特殊な魔法杖とかが買える。
ポイントの名前はおそらくエンジェリアがつけたと思われる。
とりあえず、エレエレポイントが五十ポイント増えているから、種追加して、倉庫を造ろう。
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