第2話 初めての建造物造り


 教科書を渡し終えて、エンジェリアのところへ戻る。

 エンジェリアは、暇そうにしていた。


「おちゅかれなの。人の方には教科書わたちてきたの。世の中たちゅけあいなの」

「では、次は何をすればよろしいですか?」

「こちらに、木のなる種がございます。こちらの種から、お家をちゅくってくだちゃい」


 急に高難易度クエスト到来。難易度が上がりすぎている。家なんてぼくに造れるだろうか。転生前に家を造っておけば良かった。


 今のところ、理解している役割。エンジェリアはクエストを出して、アイテムを提供する。シェオンは、僕の手伝い。できない事は代わりにやってくれる。


 できないで甘えるつもりはないから、覚えるけど。


「成長魔法を使えばできるよ。今回は、いきなり難しいだろうから」

「これを使えば、成長魔法を使うだけで家が作れる。ついでに感覚も覚えられる。かっこ一回使用すると壊れる。かっことじ」


 一度だけで覚えろという鬼畜難易度。でも、一度だけでも、教えてくれる優しさ。


それに、壊れる事を教えてくれるだけ優しいと思う。


「ふみゅ、言いわちゅれてたの。主なおちごと。エレは依頼とアイテム交換。シェオンの時は、チェルドのお側でサポート。ゼロの時は、気まぐれおたちゅけ。フォルは、せちゅめい。おにぃちゃん……フィルは、魔法具交換」


 本当にゲームみたい。それも鬼畜ゲー。


 エンジェリアは店があると言っていたから、そのうちそこで売買されるのかもしれない。店があるだけ、ぼくが転生前に読んだ、改革系の本よりは優しいかもしれない。


「でも、流石にすぐに家なんて造れないかなって思って、人と魔物全員集めるように頼んでおいたよ。ついでにあそこ見て」


 大きな看板がある。ここの地形が描かれている。


「それは特殊な魔法具で、拡大縮小しながら、どこに何を建てるかとか決めれる。それ使って頑張ってー」


 ゲームとかでも投げやりは良くあるけど、現実でそれをやられる事になるとは。新鮮な感じがする。


 早速、用意されているのを使ってみよう。と思う前に、人と魔物が仲良くできるかが心配。


「そうだったのかぁ。なぁんだ。怖がる必要ないわぁ」

「人って不思議だなぁ」


 ここの人と魔物はすごい。翻訳魔法をすぐに習得して、仲良くなってる。元々実験場と言っていたから、それが関係しているのかもしれない。


「チェリルド様だ。地図の話し合いをする時間べ」


 みんな、看板に注目した。


 まずは、この周辺からが良いと思う。ここに今全員集まっているらしいから。


 ここを拠点にして、どんどん広げていく。これが、ぼくの領地立て直し計画。


 まずは、寝泊まりできる場所が欲しい気がする。医療施設とかも欲しいけど、それを優先して外で寝る事になるのは良くはないだろうから。それをやると、余計に風邪とか引きそう。


 家と医療施設と、一気にやりたいけど、種も魔力も限りがある。種は、一つしかもらっていない。今回造れるのは一軒だけ。


「えっと、家族で家を使えるようにしたいですが、まだ全員分はできないので、みんなが寝泊まりできる宿舎を作りたいと思います」

「なら、そこに建てるのがええ。元々、おっきぃ宿があった場所だい」

「他に意見はありますか?」


 みんな賛成。なら、一軒目は決まり。


 広さとか部屋数とか、部屋の内装とかも話し合いで決めよう。できるだけ、みんなが納得する場所を作りたいから。


「建物の造りはどうしましょうか」

「前の宿はこんな感じだったね。これでどうかね?」

「ええなぁ」

「他に意見はありますか?なければ決定します」

「はいはい。階段はきついですわ」

「では、階段の隣は坂にして手すりをつけましょう」

「それ、ええですなぁ」


 みんなの意見を聞きながら、建物の造りを決めた。


 これで、残すは造るだけ。種は、一つで良いんだろうか。一つしかもらっていないから、それ以上使えないけど。

 

「ふみゅふみゅ。言いわちゅれ、種は、ひとちゅで一軒でちゅ」


 五ミリくらいの小さな種。これが、五十人入る建物に変わるなんて。


 ぼくは、魔法具に書いてある説明通りに、種を魔法具の中に入れた。


 造りたい建物がイメージできる、看板の絵を読み込んでもらう。


 みんなが期待する中、ぼくは、魔法具を、地図に描いた場所に向けた。


 魔法具がぼくに、成長魔法を使う感覚を教えてくれる。一度でこれを全て覚えられたかは分からない。それでも、覚えたと思いたい。


 とても立派な建物。みんなの歓喜の声が響き渡る。


 ゲームみたいなシステムでやっているなら、信頼度とか、領地の成長度とか、数値化してくれれば分かりやすいけど、これは現実なんだ。そこまではできないだろう。


「ふみゅふみゅ。ちゅごいの。信頼レベルが上がったの。エレエレ商店もレベルアップなの」


 数値で見せてはもらえなくても、あった。ぼくの婚約者は、こんな事までできるんだと感心する。

 

 というか、エレエレ商店は、レベルが上がるとどうなるんだろうか。ものが増えるとは予想できるけど。

 売買はどんなシステムになっているんだろうか。

 

 エンジェリアは、ぼくに赤い種をくれた。


「この種は、しょくぶちゅの種なの。こちらに、ちっちゃい版のしょくぶちゅじゅかんがあるの。頑張るの」


 次のクエストは、植物図鑑を見て、植物を育てる事。


 植物図鑑には、どの薬に使う植物なのかが詳しく書かれている。今欲しいのは、土地を肥えさせるための薬。これは、エンジェリア特性栄養ドリンクでできるみたい。


 今の商店レベルで作れる栄養ドリンクに必要な植物は三種類。エンジェリアがくれた種の数も三個。


 ぼくが育てるのは、エンジェリア特性栄養ドリンクの素材となる植物に決めた。


「これはどうやって育てるのですか?」

「さっきやった要領でやれば育てられるよ」

「分かりました。やってみます」


 エンジェリア特性栄養ドリンクの素材となる植物三種類。ぼくは、成長魔法で種から収穫できるようになるまで成長させた。


 黄色い花と緑の花、青い花。リキソウとスィソウとブンソウ。


 成長した植物をエンジェリアに渡す。


「何をおちゅくりちまちょうか?」

「エンジェリア特性栄養ドリンクをお願いします」

「かちこまりまちた。ちょうちょうお待ちくだちゃい。お待ちいただく間、お暇でちたら、エンジェリアとくちぇい、翻訳魔法教材をお読みくだちゃい」


 翻訳魔法教材。欲しかった本。これで、ぼくも自分で翻訳魔法を使う事ができる。


 早速翻訳魔法の教材を、読めない。エンジェリアの字は初めて見るけど、かなり独特で読めない。五歳児だから仕方がないかもしれない。


 異世界形って、識字率が低い事が多いから。ここもそうなのかもしれない。この場所だけかもしれないけど、文化レベルが低いから。


「ふっふっふん」


 エンジェリアは楽しそうに調合をしている。声をかけれそうにない。


 この本を読める誰かがいてくれれば、シェオンだ。シェオンはずっとエンジェリアと一緒にいる。あの本ではそう書いてあった。だったら、エンジェリアの字も読めるかもしれない。


「シェオン、これは読めますか?」

「申し訳ありません。わたくしも、姫の汚い字は読めません」


 あの本ではどうだったんだろうか。確か、エンジェリアの字を汚いとは言いつつ、読めてはいたという描写があった記憶がある。


 目の前にいる彼は読めないと言っているけど、本とは違うという事だろうか。それとも、読むのが面倒なだけなのだろうか。


「……これが本物の教材です。姫の教材は無視してください」


 渡したのと同じものをもらった。まだ、エンジェリア特性栄養ドリンクは完成していない。


 この時間で翻訳魔法を覚えよう。


 設定した言語へ翻訳するのが翻訳魔法。かなり便利な魔法だ。


 しかも、簡単。ぼくもすぐに覚えられそう。これで、魔物達とも会話できる。


「おまたちぇちまちた。エレエレとくちぇい栄養ドリンクでちゅ」


 黄色と青の成分はどこにいったかと思う緑。黄色と青って混ぜたら緑になるから最後に緑を入れれば、緑のままになるのかもしれない。


 これを、地面にそのままかければ良いのだろうか。エンジェリアは何も説明してくれない。

 説明役のフォルに聞けば説明がもらえるだろうか。


「いっきいっき」

「えっ」

「のーめのーめ。にがあじわえーにがあじわえー。ふみゅ。こっちはプレゼントでちゅ。もう一本ありまちゅ」


 この明らかに不味そうな液体を飲むなんて。エンジェリアは、満面の笑み。シェオンは、なんか楽しそう。


 飲まないと、説明をしてくれそうにない。そんな雰囲気だ。というか、この場から動く事も許されなさそう。


 ここは、勢いで一気に飲もう。できるだけ味を感じないようにして。


 ぼくは、瓶を口に入れて上を向いた。

 

 かなり苦い。薬と考えても苦い。でも、全部飲み干せた。


「ふみゅ。まちゃか本当に全部飲み干ちゅなんて。ちゅごいの。もう一本ちゃーびちゅちゅるの」


 まさかのもう一本サービス。これで、持ち物にエンジェリア特性栄養ドリンクが二本になった。

 空の瓶も一本持っている。


 これは飲んで良かったかもしれない。


 栄養たっぷりみたいだから、良イベント。


「ふにゅ⁉︎大変なの!手で持てないの!あわわわわ」

「収納魔法を使えば持てます」

「あわわわわ。でも、ちょんな時は、収納袋におまかちぇなの。収納魔法具袋版なの」


 これは強制クエスト。一体何を要求されるんだろうか。それにしても、もう少し上手くできただろうと思うくらい分かりやすくわざとらしい演技。


 まだ初日。高難易度クエストはこれ以上出されないと思うけど。


「今回のお願い事は、エレまだごちゃいだからねむねむなの。いっちょにちゃぼるの。寝るの」


 これは強制クエストで良いのだろうか。あの本でもエンジェリアは、幼い頃は特に眠くなりやすいような事は書かれていた。

 これだけ活動すれば、五歳児の身体だ。疲れて眠くなるのは当然かもしれない。


 あの本には、エンジェリアが疲れて眠くなるとしか書かれてなくて、理由は知らなかったけど、これなら仕方がない。


 眠そうなエンジェリアに腕を引っ張られて、エレエレ商店の中に入る。


 エレエレ商店。看板には、可愛い生き物がなんでもします。と書いてあった。


 可愛い生き物というのは、あの本にも書いてあった。エンジェリアは、可愛い生き物と言われていた。


 実際に見てみれば、理解できる気がする。外見もそうだけど、性格も可愛らしい。


「ここでねむねむなの」


 ぼくも身体は五歳。だからだろうか。こんなに活動していて、疲れて眠い。


「エレのだきまくりゃにゅうちゅ」

「俺は抱き枕じゃねぇよ」

「ゼロ、いちゅもエレを抱き枕にちてるでちゅ」


 枕。ここは崩壊している建物ばかりだから、ないかもしれない。睡眠は大事だから、睡眠に必要なものは早急に揃えたい。


 できれば良い寝具が欲しいけど、今はそんな事言っていられない。今は品質なんて気にしている段階じゃない。いずれは気にしたいけど。


 それに、睡眠の時に良い音楽とかを流せるようにすれば、根付けが悪い人でもよく寝れて疲れが取れるかもしれない。


 この領地の改革をするためにも、疲れを取る事は重要だ。転生前も、睡眠の質が良いとやる気がいつもよりも出ていた。調べられるものがあれば良いけど、今はないか。


 この世界にネットとかなさそうだから。


      **********


 今は何時だろうか。何時間寝ていたか分からないけど、疲れは取れている。


 エンジェリアは、まだ寝ている。シェオンはいない。起きたんだろう。


 外に出てみよう。そうしたらいるかもしれない。


 外に出ると、空が暗く、魔物も人もいない。


 シェオン達はどこへ行ったんだろうか。ぼくがこの領地を豊かで住み心地の良い場所に改革する。そんなのあの本にはなかった。どこで何をしているのかなんて分からない。


 明かりのない中、夜道を五歳児が歩くのは危険だろう。でも、外にいる可能性が高いから探しに行こう。


 種が余っていれば、光花を育てられたけど、一つも種がない。それに、そもそも、異世界だからとそんな都合の良い花があるかも分からない。


「……チェルド?ゼロ達どこ?」


 エンジェリアが起きてきた。まだ種を持っているかもしれない。それで、明かりは確保できる。

 そうすれば、探すのも楽になる。


「エンジェリア姫、まだ種はありますか?一つ欲しいんですが」

「ちょんなの、光魔法でどうにかにゃるの」


 エンジェリアは、あの本では生活に使えるような便利な魔法は苦手と書いてあった。明かり代わりの光魔法を使えるのだろうか。


 エンジェリアが星音だとすれば、本とは違うかもしれない。でも、エンジェリアはあの本に書かれていた人物像そのものにしか見えない。彼女の正体は一体なんだろうか。


「……ぴかぁなの」


 光魔法は使える。使い勝手は良くないけど。


 光が強く広範囲で、昼の光よりも明るくなっている。前が見れない。


 あの本では、エンジェリアは魔力が多すぎて、弱い魔法が苦手と書いてあった。まさにその通りだ。


「エンジェリア姫、やらなくて良いです」

「……まぶちいの。これにちゅるの。持って」


 光魔法の魔法具。これは、あの本にも書かれていた。洞窟とかで使う便利な明かり。実際に持ってみるとかなり軽い。


 エンジェリアも、これを持っているなら初めからこれを出せば良いのに。確か、あの本には、エンジェリアは暗いところが苦手で、テンパると何するか分からないというのが何度も書かれていた。

 もしかしたら、暗いところで、怖くて正常な判断力がなくなっていたのかもしれない。


「エレエレ依頼なの。エレは、防御魔法ちかちゅかいまちぇん。ゼロ……シェオン達のいるばちょまで行くのに、エレを守ってくだちゃい」

「分かりました」


 これまた高難易度クエスト。でも、難しくとも危険性は少ないかもしれない。

 あの本では、エンジェリアの防御魔法はその辺にいる魔物には破れないと書かれていた。


 ぼくは、転生前に護身術とか学んでいたから、それを活かせば、魔物から身を守る事くらいはできると思う。


「エレとくちぇい栄養ドリンクをちゅかって、しょくぶちゅのぞうちょくも方法でちゅ。それを地面に全部たらちぇば、地面に養分がちくちぇきちゃれるの。時間かかりゅけど」


 それはやっておいた方が良いかも。植物が十分に育つ環境にするためにも、今から少しずつやっていった方が良いと思うから。


 今持っている二本のエンジェリア特性栄養ドリンクを溢そう。


 二本とも溢しても何も変わっていない。時間が経たないと変わらないかもしれない。ここを覚えておいて、また明日見てみよう。


 できれば、今すぐ使えるような対処法を知りたかったけど、それは自分で考えよう。


「あの真っ黒いこわこわしゃんが、きょぉぼぉな魔物しゃんなの」


 ここの領民の魔物は、黒というより紺だった。


 今目の前にいるのは真っ黒。見分ける方法は楽で良いかもしれない。


「こういう魔物しゃんは、エレを狙うの。エレはごくじょぉのおちょくじらちいから」


 これはエレが防御魔法で守っている間に倒す。これが一番確実そう。この作戦でいこう。


「武器のちきゅうなの。ちょれと、弱点はやわらかちょうなばちょなの」


 柔らかそう。あの魔物は、硬そうな甲羅で覆われている。でも、尻尾の近くは柔らかそう。


 支給された短剣で、お尻を狙おう。


 魔物はぼくには目もくれない。エンジェリアだけを狙う。エンジェリアが言うように、魔物にとってエンジェリアが極上の食事なんだろう。他には目もくれないほどに。


 魔物がエンジェリアに夢中になっている間に、ぼくは簡単に魔物の背後をとった。持っている短剣を力一杯、お尻に突き刺す。


 魔物は浄化魔法が弱点。浄化魔法は使えはするけど、そこまでの威力はない。


 転生前、よく言われていた。成長すれば、できるようになると。


 ぼくは、浄化魔法に成長魔法を使って、剣に纏わせた。


 魔物が剣の側から浄化されていく。浄化された魔物は、真っ白い霧となり消えた。

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