Episode 25 vs. 御剣②
戦いの始まりは、池内の炎魔法だった。
炎属性の上級魔法『火炎渦』は周りの空気を巻き込みながらどんどん大きくなって、俺に近づいてくる。
俺は右に大きく跳び、攻撃を回避すると、
火炎渦はそのまま後ろに進み、山にぶつかって消えた。
さすが【賢者】なだけあって魔法の規模は俺がこれまで見てきた魔物のものよりも大きい。
だが、ピンチというほどではないな。
次に攻撃を仕掛けたのは俺。
竜剣を抜き、距離を詰めて池内を攻撃する。
魔法使いは基本的に中距離を好む。
ならこちらから距離を詰め、一瞬で勝負を決めるのが得策。
石田や御剣がフォローするかと思ったが、彼らはそれを知らなかった。
バリーンと、ガラスが割れる音のような音があたりに響く。
「なるほど、防御魔法か」
「そうだ、それにしても一発で割られるとは思わなかったぞ」
もう一回だ。
俺の一度目の攻撃は池内の展開した防御魔法に弾かれたが、一発で破壊できたことは大きい。
魔法使いである以上、魔法を使うための魔力が切れれば使い物にならない。
だとしたら魔力切れを待つ方が得策か。
そう考えた俺は標的を石田に変える。
今のところ御剣は何もしてこない。観察をしているのか・・・・・。なるほど、あくまで池内、石田は前座。前座で俺の戦闘スタイルを観察、分析をした本命御剣が俺を倒すという作戦か。
追放されるような雑魚相手によくそこまでするもんだな。
石田は【拳王】。祝福の名前の通り、パンチや蹴りなど肉体的攻撃技術、威力のブースト。
超近距離戦向きのパワー型だ。
となれば俺はやりやすい。
生身の拳と、竜鱗を使った剣。
どちらが硬いかなど明白。これは勝った。
俺が距離を詰めるより先に、向こうが動いた。やはり向こうも距離を詰めた方が戦いやすいのか、走ってこちらへ向かってくる。
だが・・・・・遅いな。
俺ならこの程度の距離1秒で詰める。
それに、なんの構えもせず近づいてくるのは大きな隙になる。特に相手は剣を持っている俺。
リーチもこちらの方が長いし、威力もある。無闇に近づけば切られて終わり。
何か作戦でもあるのか?
「ふっ!」
俺は無防備に近づいてくる石田の首に剣の腹を叩きつけ、気絶させる。
クラスメイトだが、後悔はない。
気絶だけで、命に別状はないくらいの威力にしておいた。
「こんなもんか」
意外とあっさりと1人倒せたな。
まあ【拳王】は近距離型だし、御剣【勇者】の下位互換みたいなもんか。
それに実践経験が少なかったのもあるだろう。
俺は冒険者をやったり、『古竜の巣』の魔物と戦ったりしてきた。だが彼らは異世界の勇者として王城の中にいたはずだ。
必然的に戦闘経験は俺より劣るだろう。
「クソっ!『氷結渦』!」
池内から2度目の魔法が放たれた。
『氷結渦』雹のような小さい氷の粒を含んだ冷気の渦。さっきの『火炎渦』もそうだが、これら渦系魔法は小型台風のようなもので直撃をくらえばかなりのダメージがある。
ここ、『古竜の巣』のある山脈地帯は非常に標高が高い。山脈地帯なのだから当たり前のことだ。
つまり、標高が高ければ気温も低い。
ここは雪は降ってはいないものの、かなりの寒さが続いている。
やはりこの気温での『氷結渦』は根本的な強化がされるな。魔力で冷気を作り出し、それを渦状にして攻撃をする魔法だが、こういう元から冷気のある場所では作り出したもの以外の冷気も巻き込むことができるため、威力規模は必然的に上がる。
まずいな、さっきの『火炎渦』とはかなり規模が違う。避けるのも難しい。迎撃にした方がいいか?
だがもし失敗した場合くらうダメージはかなりデカい。
何かいい策はないかと思案しているところで良い案を思いついた。
実現可能かは分からない。漫画のような案だが、やらないよりはマシだ。失敗したときは全力で走って逃げればいい。
そう決めた俺は、剣を大上段に構える。
剣先に勢いを乗せる感じで、速さを重視する。
空気を切り裂き、飛ばすようなイメージだ。
「ふっ!!」
俺は力み声と同時に剣を振り下ろした。
ヒュン!
縄跳びで二重跳びをすると、音がする。
野球のバットで素振りをすると、音がする。
テニスラケットで素振りをすると、音がする。
どれも物を高速で振って、その時に起きた空気との抵抗で音が出ている。その時空気は高速で移動したはず!たぶん!難しいことはわからん!
まあとにかくそれっぽい感じで、
剣を素早く振れば、飛ぶ斬撃!みたいな感じのができるんじゃないかって発想だ。
最高速に達した剣先なら空気を切り裂き、さらにその切り裂いた先の空気を飛ばす!
そんな漫画みたいな発想は叶った。
俺自身の力によって。
勢いよく飛んだ空気の飛ぶ斬撃は、池内の放った『氷結渦』を蹴散らした。すると俺の視線の直線上には魔法を放った直後の無防備な姿の池内が現れる。
俺は地面を強く蹴り、池内の目の前まで行き、そのまま止まらず剣を振るう。
視界の端にはまずいと思って駆けつけようとしている御剣の姿があるが、俺は気にせず攻撃を続ける。
流石に殺す気はない。
石田と同じように池内も剣の腹を使った峰打ちだ。
ガーンと、脳に響くような重めの一撃をくらった池内はサッと気絶し、倒れ込む。
これで2人目。
残すは本命の【勇者】御剣優弥のみ。
そして御剣を倒せば俺は『超進化』を獲得し、彼らとの差をより大きなものとする。
「行くぞ、御剣ぃ!」
こうして、藤原伊吹vs御剣優弥の戦いが始まった。
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