Episode 26 vs. 御剣③



 大陸中央に国土を持つキルス王国からはるか北の山脈地帯。その最奥には前人未到の迷宮『古竜の巣』がある。

 知る人ぞ知る話だが、『古竜の巣』は元々古代竜族の住処であった。何千年も前の話になる。膨大な力を持つ竜族から溢れ出た力は洞窟内に溜まった。それらの力を源に、魔物たちは生まれ出でる。洞窟内に溜まった魔物や魔鉱石、それが後々迷宮となった。

 『古竜の巣』及びその周辺山脈地帯は、そんな未開の地である。


 そんな普段は人一人いないような場所で、

今は耳障りな高い金属音が鳴り響いていた。




「ぐぅ!」


 今のところ俺が優勢。

このままいけばまず負けることはないだろう。


 御剣は【勇者】の能力を使い、勇者の剣を取り出して戦うが、俺には到底及ばない。

 驕っていると思われるかもしれない。

だが負ける気は全くしないほど、実力の差は明白であった。


 御剣が剣を振るい、俺に攻撃をしようとした時にすでに、俺の剣は御剣の剣を弾く位置にある。

 俺の剣を御剣が弾こうとした時、すでに俺の剣は御剣の剣の先にある。


 常に一手俺が先だ。


 これは将棋ではない。剣を使った戦いだ。

そして両者の間にある差は、1秒や0.1秒といった程度の差ではない。


 一手。


 実戦においてその差がどれほど大きいか、分かる人は少ないだろう。だが、実戦経験が少なくとも一介の剣士である御剣は気づいているはずだ。

 己は伊吹には勝ちえないと。


 だがそれで諦める【勇者】ではない。

無理だと分かっていても、諦めずに戦い続ける。


「うおおおおおぉ!」


 雄叫びを上げながら勇猛果敢に剣を振るうその姿はまさに勇者。彼の姿を見た誰もが、主人公!とうなづくような状況であった。

 ただ残念ながら、主人公は彼ではない。

それは茜の心が息吹に傾いていることが証明している。


「悪いが、こっちにもいろいろ事情があるんでな。そろそろ決めさせてもらうぞ。じゃあな御剣、また今度」

 

 そう言って俺は竜剣を大上段に構え、空中に大きく跳ぶ。もはや防御は必要ない。このまま剣を振り下ろした時、俺は御剣に勝利する。

だが、それではダメだ。彼を殺してしまう。

あくまで俺は、彼らを倒さなければならない。殺すのではない。これは自分の意思で決めたことだ。


 竜剣が御剣の頭を裂く直前、俺は手首を捻り剣の向きを変える。御剣の頭には剣の腹が強く叩きつけられた。


「・・・・・負けたよ、藤原君」


 最後にそう言った御剣は、清々しい表情をしてまっすぐ後ろに倒れ込み、気絶した。




「うおおおおおぉ!」


 俺は一人、山奥で勝利の雄叫びをあげる。



 始めはステータスがなくて追放された俺だったが、何度も戦闘経験を積むことで彼らより強くなった。

 いかにつよい『祝福』を得ようが、それを使いこなせなくては意味がない。彼らが実践経験を大して踏んでいなかったのが良かったのだろう。


 こうして、俺は【勇者】【拳王】【賢者】を下し、さらに【聖女】との再会を果たした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る