Episode 24 vs. 御剣①



 お互いの姿が完全に見える距離、もう間には数メートルしかない。


 だから、向こうの4人が誰であるか俺には分かった。


 正義感の強いクラスの中心人物、御剣。

 石田に池内。

 そして、俺の幼馴染である白瀬茜。


 正直言って他の3人はどうでもよかった。

俺はただ、茜と再会できたことが嬉しかった。


 向こうも心から驚いた表情をしている。

それは茜だけでなく御剣たちも。


 俺のことは忘れていなかったようだ。


「藤原君、久しぶりだね。元気だったかい?あの時はミーシャさんを止められなくてすまない。

ところでなんでこんなところにいるんだい?」


 呆然としていた4人の中、御剣が1番最初に正気を取り戻し、話しかけてきた。


「あの時のことに関しては仕方ないさ、俺も君らを恨んじゃいない。

俺は修行のためにここにきていてな」


「修行って?ここは魔王の土地じゃ?」

「いやそれは間違いだ。ここは『古竜の巣』と言ってな、竜族の遺跡なんだ。中はダンジョンみたいになっていて修行に使えるんだ」


 『超進化』のことや初代竜王のこと、試練のことなどは伏せておいた。


「いやでもミーシャさんは魔王の地だって。

それにダンジョンみたいってことは魔物がいるんだろ?ならそれはやっぱり魔王の巣窟ってことだよ」


「そんなことはないんだけどなぁ」


 このままだと泥沼になりそうだ。


「たぶん君は誰かに騙されているんだ!

僕たちは今から『古竜の巣』を破壊する。

危ないから離れていた方がいいよ」


 まずいな、このままだと本当に『古竜の巣』を攻撃されてしまう。


「やめろ、ここは魔王の巣窟じゃない!」

「だから君は間違っている!ミーシャさんはここが魔王の大切にしている場所だから破壊しないといけないと言っていた!」


「それならミーシャってのが御剣を騙しているんだ」


 ブチっ


 そんな音が聞こえた気がした。

 それは、御剣の琴線が切れる音だったのか。


 雰囲気を一変させた御剣が、冷めた声で言った。


「いくら君と言えども、彼女を侮辱するのは許さないよ。撤回しろ」


 まずいな、キレてる。

このままでは説得は無理だ。


「悪かった、侮辱するつもりはなかった。

だが『古竜の巣』を破壊されるのは困るんだ」


「無理だ。邪魔するなら、容赦はしないよ?」


 仕方ない。

 向こうもそのつもりのようだ。


 強行手段に移るしかない。


「待って!やめなさいよそんなの!」


 そこに待ったをかけたのが茜だ。


「待てないよ白瀬さん。ハァ!」


 なっ!?


 キレた御剣は周りも見ずに剣を抜き、こちらを切ろうとしてくる。


 嘘だろ、こいつはこんな乱暴な性格ではなかったはず。


 俺はとりあえず近くにいた茜を抱えて距離を取る。


「待て!白瀬さんを誘拐するだなんて!

お前はやはり魔王の手先か!」


 もしかすると、だが、彼は一瞬の洗脳状態のようなものに陥っているのではないか、という感じがした。


 自分の邪魔をする奴は全て魔王の味方で悪。


 そんなふうに思っているのではないか。


「茜、久しぶり!」


 御剣から逃げながら、俺は茜に話しかける。


「ひさしぶりぃ。会えて、伊吹とまた会えて、嬉じいよぉ。うわーん」


 泣いてる!?


「うんうん、そんな泣かないの。

俺もまた会えて嬉しいよ」


「ねえ、私あの国にずっといるの嫌なの。

2人で一緒に逃げない?」


「いいんだけど、ちょっと試練ってので『古竜の巣』を破壊しようとするやつを倒さなきゃいけないんだ」


「それは御剣たちを倒すってこと?」

「そうなる、ね」


「分かった。私は何も口は出さない、伊吹の味方だよ」


 本当に、茜は良いやつだ。

久しぶりに会ったというのに俺の味方でいてくれる。


「ありがとう」



 そう言って、俺は茜を十分に安全な遠い場所に避難させてから、御剣たちのいたところへ戻った。


 そして、俺と元クラスメイトとの戦いが、始まる。


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