Episode 8 姓の意味、そして決着
これでたぶん俺の名前はある程度響く。
そうしたらこれからいろいろやりやすくなるだろう。
この世界では有名人というだけで、
何かとサービスがつきやすい。
「え、マジかよ」
「ムーノが負けた?ただのガキに?」
「ただのガキって言ってたけどC級冒険者だろ」
「それは確かにそうか」
「終わった、俺の人生」
「なんだ?ムーノに大金賭けてたのか」
「そうだよ、クソが!」
「よっしゃー!やっぱあのイブキってガキに賭けて正解だったぜ!俺って運いい!」
反応はさまざまだったが、
やはりいきなり現れ、ある程度有名な冒険者ムーノを倒したことには驚かれていた。
決闘も終わったし、そろそろ帰ろうかと思っていたところ、エドワードが言葉を続けた。
「今回の決闘の結果により、イブキ・フジワラをA級冒険者とする!」
…………
なんですか、それ。
聞いてないんですけど。
「ぇ、イブキ・フ、フジワラって」
「おいおい、マジかよ。俺さっきまでガキとか言っちゃってたぜ」
「終わった、今度こそほんとに人生終わった」
観客の反応は、俺の一番重要ししたところとは違っていた。
この世界のことをよく知る観客からすれば、
決闘で下剋上をすれば、相手のランクより一つ上にいけるのは当たり前のこと。
なぜなら、相手より強いと証明したのだから。
では観客たちにとって、何が衝撃的であったか。
それは、フジワラという名字である。
俺が冒険者登録をしたときに受付嬢とした会話。
名字があるということは、この世界において貴族階級であることを示す。
そう、エドワードがイブキ・フジワラと言ったことで、俺が貴族であると、みんなに思われたのである。
いや、まあ、どのみちギルドにも東方の貴族って設定だし、いいかとは思うけど。
ムーノの顔を見ると、青白く染まっていた。
まあ、当然の反応だろう。ただのガキだと思って侮辱した相手が貴族だったんだ。
不敬罪で処刑されてもおかしくない。
ただ、冷静になればそんなことはないとわかるはず。
なぜなら、もしイブキが不敬罪で処刑にするような貴族であったなら、初めからギルドがムーノたちを止めている。
止めずに貴族がキレたら、ギルドにも損失が生まれるからな。
ではなぜ、今回、ギルドは止めなかったのか。
答えは単純。
俺がギルドにそういうのは不要だと言ったからだ。
ぶっちゃけ俺は貴族でもないし(オフレコ)、
そんなことされても困るから。
『俺はそんな細かいこと気にしないんで、あんま俺のこと貴族だーって他の冒険者たちにも言わないでくださいね。一冒険者として生活したいので』
って伝えておいたんだ。
まあ、さっきフジワラとか言ったのはエドワードのミスか。はあ、迷惑なもんだが、まあいいか。
それよりも真っ青な顔をしているムーノが可哀想なので、安心させるために声をかけた。
「おい、ムーノ」
「ひっ!」
完全に怯えてる。そんなつもりはないんだけどな。
「いや、俺は別に怒っていない。俺はここで貴族ではない、一冒険者としてやっているんだ。
不敬罪に問うたりはしない。安心してくれ」
俺が怒っていないことが伝わったのか、
ムーノは若干安堵したかのような表情を見せた。
「あ、分かった、いや、分かりました。ありがとうございます」
「敬語もいらない。今の俺はただの冒険者だ。
観客のみんなも、イブキでもガキって呼んでもいい。俺はそんなこと気にしない。
俺のことは一人の市民だと思ってくれ」
こんなことならフジワラなんて書かなければよかったとは思うものの、大切な名字だからな。
無くすわけにはいかない。
「やったな、イブキ。かっこよかったぞ!」
「あ、シェネル、いたんだ」
話しかけてきたのはシェネルだった。
決闘を見てたの、全然気がつかなかった。
「酷くないか〜、妾も頑張って応援したんだぞ〜!」
「ごめんごめん、ありがと」
こうして、俺とムーノの決闘は幕を閉じた。
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