Episode 7 喧嘩買ってボコボコにした件



 初めはただの喧嘩みたいな感じだったのが、

決闘ということもあり、話が大きくなっていた。


 どっちが勝つかに賭けをする奴も現れたり、

賭けの仲介をして大儲けをしようというもの。


「俺はムーノに賭けるぜ」

「私もムーノだな」

「わかんないぜ、あのガキが勝つ可能性だってある」

「じゃあお前賭けてみろよ」

「えー、それは流石に…」


「俺は一攫千金狙ってあのガキに賭けるわ」

「おいおい、マジかよ」


 ほとんどの人間がムーノが勝つ方に金をかけていた。まあいくらか俺に賭ける人もいるらしいが。


 でもやっぱり、ほとんどはムーノ側だな。


 それはなぜか。

イブキは最近ここらへんに来たばかりなのでイブキのことを知る者は少ない。

だから当然、C級冒険者であることも知らない。


 決闘にはこうしてかなりの金が動くため、

一応キルス王都支部冒険者ギルドが立ち会うことになった。


 こうした決闘はたまにあることで、違法ではないらしい。むしろギルドとしても立ち会うことで幾らかの利益が入るらしい。


 決闘の会場に選ばれたのはキルス王都の中広場、

勇者エルドの彫刻が飾られ、その周りに噴水のある市民の拠り所だ。


 円形状の広場も、今はムーノとイブキ、そして審判以外は誰も中に入れない。


 審判を務めるのは危険なときは試合を止められるよう、十分に実力のあるギルドマスター、エドワードだ。


 彼はギルドマスターでありながらも、1人のS級冒険者でもある。規模の大きいキルス王都支部を支えるのに十分な存在だった。



「はっ、やられる覚悟はできてるんだろうな?」


 そう、威勢よく煽るのはムーノ。


「そっちこそ、喧嘩ふっかけておきながら負ける大恥かく覚悟はついたか?」


 俺も煽り返す。

意外とこういう荒々しい冒険者っぽいのも面白いな。



「では、ムーノ対イブキ・フジワラの決闘を、

ギルドマスターエドワードの名の下に開始する!」


 エドワードの声を皮切りに、決闘が始まった。


 最初に動いたのはムーノだ。

大斧一つという攻撃特化型の冒険者で、

その巨躯を使い、普通の人間なら重すぎて振るえない斧を軽々と振り回す。


 今回もいつも通りの戦い方でいくらしく、

初めから大斧を右斜め上に構えつつ、走って接近する。


「死ねぇ!」


 ムーノも伊達にB級冒険者をやっているわけでは無い。その実力はある程度確かだ。


 あくまで、ある程度、だが。


 俺はムーノの攻撃を後ろに飛んで避けつつ、

次の自分の一手を考える。


 俺の武器は剣だ。

相手よりリーチは短いので、距離を詰めなければいけない。だが、相手は大斧。超近距離までいけば相手の攻撃はこちらに当たらない。


 となれば、一瞬で距離を詰める!

俺は数秒地面で溜めを作り、蹴ってムーノに肉薄した。


 一瞬で距離を詰められたムーノはギョッとし、

急いで後ろに飛ぼうとしているが、もう遅い。


 俺は剣の腹をムーノの首に押しつけ、

降参を促す。


「お前の、負けだ」


 そう言ってやったが、ムーノの目はまだ諦めてはいなかった。


「うおおぉっ!」


 雄叫びを上げながら大斧を振り回して、長い持ち手の鉄棒を俺に当てて攻撃しようとするが、意味はない。


 俺は迫ってきた鉄棒を剣で弾く。

凄い勢いで跳ね返された大斧は、ムーノの手から離れ、どこかへ飛んでいく。


 まずい、観客の方に飛んでゆく。

と一瞬思ったが、さすがはS級冒険者でありギルドマスターでもあるエドワードだった。

 彼は飛んでいく大斧を空中でキャッチした。


 なるほど、エドワードの魔能は浮遊系か。

 

 魔能とは、何か。

俺も最近知ったことだが、いろいろと難しかったのでまた今度にしよう。



 さて、それよりも、俺はムーノとの戦闘に戻ろうとしたが、それは不要だったようだ。


 自分の武器が失われたことで完全に諦めたらしいムーノは屈辱的な顔をしている。


 まあ、戦ってみて、こいつは完全に悪いやつではないことは分かった。勝とうという気持ちはあっても、殺意は無かったからな。


「俺の勝ちでいいか?」

「ああ、いいぜ」


 下手に慰めはしない。


 下手な慰めは、逆にムーノに恥をかかせるだけになるだろう。


「B級冒険者ムーノ対C級冒険者イブキの決闘の勝者は・・・イブキ!」


 ギルドマスターの下に俺の勝利が認められた。

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