Episode 5 古竜の姫 後編



 中にいた少女が外に出てきた。

金色の美しい目をしている。銀の髪も相まって美しさが際立っている。


 またその瞬間気がついた。先程まで邪魔だった足元の不快感が消えている。地面を見ても、なんの変哲もない茶色の硬い土だ。


「助けてくれてありがとう」


 先に少女が口を開いた。

その声はどこか筋が通っていて聞いていて心地の良い声だった。


 そしてまた、ただの町娘では無いような、

球体越しでは感じられなかった、存在感というかオーラのようなものがある。


「どういたしまして。貴女はなぜこんなところであんな状態になっていたんだ?」


 純粋な好奇心だ。

不気味だった地面に不思議な球体。

ここが異世界であることを考えると、『魔法』という言葉が脳裏を掠める。


 そしてその期待を裏切らない返答が、少女から返ってきた。


「邪神の罠に引っかかって拘束魔法をかけられたんだ」

「邪神ってなんだ?」

「む?邪神を知らないのか?昔は誰でも知っていたのにな……」


 邪神か。

名前からして明らかに悪そうなヤツだな。


 この少女、いや昔は〜とか言ってるし少女じゃないのか?

 まあそれはおいといて、その悪そうなやつに捕まってたってことはこの人は悪いやつではなさそうだな。


「最近こっちにきたばかりなので、知らないだけかもしれないです」


 圧ではない、なにかオーラのようなものを感じ、

自然と敬語になった。カリスマ性、とでも言うのだろうか。


「うーむ、そういうものなのかのぉ」


 なんか言葉遣いがおばあちゃんみたいになってるぞこの人。

 もしかしてロ◯バ◯ァ!?


「お主、碌でもないことを考えておるだろ?」

「なんで分かったんだ!?」

「全部顔を書いてあるわ!」


 コントのような会話を挟みつつ、

話は邪神についてへと戻る。


「邪神とは我ら竜族の仇敵でもあり、この世の全ての善良な生物の敵だ。かつて勇者エルドによって400年前に封印されたものの、今もこうして罠などは消えていない。

それが意味するのは封印されて今もなお、

やつはこの世を破壊するのを諦めていないということ」


 なんかいろいろ複雑だな。

人間とか竜族VS邪神で、現在は邪神封印中だけど、まだ完全に死んだわけじゃないってわけか。


 てか竜族!?

この人間にしか見えない少女(?)が!?


「あなた竜族の方で?」

「む、そうだぞ。妾は偉大なる古代竜族の末裔、

シェネル・ドラグーンなり〜!フハハハハ!

妾が名乗ったんだ、次は貴様の番だ!」


「あ、どうも。イブキです」

「そうかそうか、イブキか。よろしくな!

フハハハハ〜!」


 なんか愉快そうな竜だな。


「ところで、貴様は妾を救ってくれたわけだ。

特別に妾をシェネルと呼ぶことを許そう!

さらにさらに〜なにか願いを叶えよう!」


 願い、か。

そう言われても特に欲しいものはない。


 ステータスがあったらみんなの輪には入れたのかもしれないけど、今となってはどうでもいいことだ。


 今気になることはただひとつ、それは・・・


「そうだな、ステータスがないってのはどういうことか、教えてくれないか?」


 先ほどまでのヘラヘラした愉快そうな顔が曇り、

真剣に考え込む表情に変わった。


「・・・・・ステータスが、ない?……………」


 長い沈黙の後、堅い顔をしてシェネルが言った。


「かれこれ1000年生きている妾でも、ステータスのないやつにあったことは一度もない。イブキ、お前を除いてな。

だが、聞いたことだけならある。

昔、古代竜族の書で見たことがある初代竜王、並びに邪神や創造神など、創世の時を生きた者はほとんどステータスを持たなかった、と。

共通することは一つ、圧倒的な力を持っていたこと。

常人なら自らの成長を感じられるステータスも、

やつらにとってはただの足枷にすぎん。

ステータスには限界があるからな」


 シェネルの口から出た話は、想像の斜め上をいく話だった。

 創世の時代のことなど知っているわけがないが、聞いて分かったのはステータスが無いというのは悪いことではなさそうだ。


 別に創造神並みに強くなりたい!と思っているわけではない。

 だが、俺を追放した第二王女や、追放に対して何の異も唱えなかったクラスメイトたちを見返せるようにはなりたい、という気持ちは多少なりともある。


「俺は、強くなれるのか?」

「ああ、なれる。お前はすごいやつだ、妾と一緒に特訓すれば邪神をワンパンできるくらい強くなるだろう」


「その『妾』さんはさっき誰の罠に引っかかってたんだっけ………」

「………うるせー!」



 こうして、俺は古竜の姫、シェネル・ドラグーンと友達になった。

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