Episode 2 ステータスがない!?
時は2時間ほど遡る。
教室で昼ごはんを食べていた俺は突如足元に現れた青白く幾何学模様の中に吸い込まれた。
次に視界が開けた時にはさっきまでとは全く違う光景が広がっていた。
中世ヨーロッパのような内装をしている建物。
明らかに日本人とは違う欧米風の顔立ちの人たちが俺を見ている。
いや、俺たちを見ている。
「おいおいおいおい……なんだよこれ」
「もしかしてこれって異世界転移ってやつか?」
「やばぁ、写真撮ってイ◯スタにあげよー」
「俺最強になって無双するわ」
俺と一緒に転移したクラスメイトも全体的にざわざわしている。
そして、その混乱を収めるために人形のような美しい顔立ちの女性が俺たちに近づき話しかけてきた。
「みなさま、ようこそ我らがキルス王国へ。
私はキルス王国第二王女ミーシャ・ラクラス・キルス。いろいろ混乱することはあると思いますが、
今はどうか私たちの話しを聞いてください」
彼女の美貌にクラスの男子の大半が目を奪われている。
ミーシャは話を続けた。
「現在、キルス王国は魔王率いる魔族たち魔王軍との戦闘により窮地に陥っています。その状況をあなたたちに打開していただきたいのです。
もちろん報酬はいくらでもあります」
そんなことをいきなり言われてもって感じだ。
「待ってくれよ、俺らは戦い方なんて知らないぜ」
「そうよー、ウチは彼ピとデート行きたいのにー」
俺は人の感情を読むのが得意だ。
毎回正確に分かるわけではないが、時々こんな感じの気持ちなんだろうな、と分かることがある。
そして今も、それが分かる。
ミーシャの穏やかな笑みの裏に
『黙って聞けよ』と煩わしさを感じているのが分かる。
「みなさん、落ち着いてください。
みなさんには女神様からの『祝福』が与えられています。それを使って戦うことができるのです」
『祝福』
まるで最近よく見る異世界系ラノベのようだ。
「ステータス、と言ってみてください。
目の前に半透明のスライドみたいなものが現れると思います」
確かに、ステータス、と言ったミーシャの目の前には青白い板みたいなものが出ていた。
「「「「ステータス」」」」
クラスのうち、何人かがステータスと言った。
すると、その瞬間ミーシャと同じようにスライドが目の前に現れる。
「そこにはみなさんの身体能力や状態、祝福などさまざまなものが書かれています。中には【勇者】など特別な祝福を授かった方もいると思うので、私たちにステータスをお見せください」
なるほど。
結局こいつらは異世界から大量に人間を呼び出して、必要なのは特別な祝福をもらった数人ということなのだろう。
恐らく、当たりの祝福だとしてもある程度の待遇はあるはず。
だが確実に勇者などとは別扱い、少し強い奴程度の扱いだろう。
「ステータス」
俺も実際に言ってみた。
…………
「ステータス!」
…………
うーん……これはどういうことなんだ?
みんなと同じように『ステータス』って言ってるのに出てこないぞ何も。
どうすればいいのか迷っていると、
ミーシャがステータスの解説に移った。
「ステータスには名前、年齢、性別、HP, MP, 力、知力、俊敏、祝福の9項目あると思います。HP, MP, 力、知力、俊敏、どれも普通の人は10〜20程度です」
「平均10〜20!?ひっくいな、俺なんか全部200はあるぜ!」
「俺は力が300だ!」
「私MP250!」
聞こえてくるクラスメイトの興奮した声は、俺を不安にさせる。聞こえてくる声どれもが、自分だけがステータスのない状況を感じさせる。
「みなさん、ステータスの中で1番重要なのはそれらの値ではありません。1番重要なのは『祝福』です。みなさんの祝福が何であったか、一人一人教えていただきたく思います」
そうミーシャが言うと、たくさんの神官が現れ、みんなのステータスの鑑定を始めた。
ミーシャの先ほどの言葉を聞いて、俺は大きな不安を抱いていた。
「ミーシャ様!こちらのユウヤ・ミツルギ様が【勇者】の祝福を!」
その時、興奮した神官の声が上がった。
御剣が【勇者】か。まさにピッタリだな。
あいつは良い意味でも悪い意味でも実に勇者らしい。
勧善懲悪、正義漢。悪を憎み、善を好む。
聞こえはいいが、実際は自分の信じたいものしか信じないやつ。『悪』と呼ばれるものは害と決めつける。これは偏見か……
ただ、御剣は悪いやつではない。
だからこそクラスの多くの生徒から好感を得ている。
「勇者!素晴らしい!ミツルギ様、あなたはキルス王国に多大なる利益をもたらしてくれるのでしょう」
まあなんとも傲慢なお言葉だ。
キルス王国との協力を前提とした言葉だ。
「お役に立てるなら光栄です!」
ただやっぱり良くも悪くも御剣はこういうやつ。
困っている奴がいたら助ける。
そして、神官の鑑定の順は俺のところまで回ってきた。
「失礼します」
そう言って神官は鑑定を開始したようだ。
自分のステータスがどうなるのかという不安を抱えつつ鑑定の結果を待つ。
一瞬、神官の顔が曇ったように見えたのは気のせいではないだろう。
「む……」
気のせいではなかったようだ。
今の神官は明らかに険しい顔をしている。
「なにかありましたか?」
ミーシャがこちらに視線を向ける。
背中に冷や汗が流れる。
「ハッ、申し訳ないのですが、少し鑑定の調子が悪く、こちらの方のステータスを見ることができません」
そっちで解釈されたのか。
なら良かったか……
「では他のもの、その方の鑑定を行いなさい」
その後、何人もの神官が鑑定を試みたが、誰一人として俺のステータスを見られなかった。
だんだんと、周りの人が俺に疑念の目を向け始める。こいつステータスがないんじゃないかって顔だ。
そして、その疑念が確信に変わったのは俺のステータスを見られなかった神官が、他のクラスメイトのステータスは見れたときだった。
唯一ステータスが見られない、つまりないであろう俺。孤独感が押し寄せる。
「あなたの名はなんというのですか?」
ミーシャに尋ねられる。
どういう意図の質問なのだろうか。
「藤原伊吹と言います」
「……そうですか。ではーー
そして、時は冒頭へと戻る。
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