第3話 多様性を語る偽善

近年、「多様性」という言葉が至るところで聞かれるようになりました。企業の広告、政府の施策、教育現場――多様性を認め、尊重しようというメッセージが頻繁に掲げられます。一見すると、社会は多様性を歓迎しているように見えます。しかし、その言葉の裏側には、偽善が潜んでいるのではないかと感じることがあります。


「多様性を尊重する」と言いつつも、実際には多様な価値観や生き方を受け入れるどころか、自分たちにとって都合のいい「多様性」だけを選んでいる場面をよく見かけます。例えば、SNSや職場では「多様性を認める」という建前のもと、特定の意見や立場を排除する動きが目立ちます。少数派の声を表面上は尊重しているように見えても、都合が悪くなると、その声を無視したり、時には排斥したりすることがあります。


さらに、「多様性」を謳う企業や団体の中には、実際の行動が伴っていないケースもあります。広告で「多様性」をアピールする企業が、実際には労働環境の改善や差別の是正に取り組んでいないというニュースを目にするたびに、言葉だけが先走っているように感じます。


なぜ、こうした偽善が生まれるのでしょうか?その一因は、「多様性」という言葉の響きがあまりにも美しく、誰もがそれを正しいと感じやすいことにあるのではないでしょうか。多様性を認めないことは「悪」であり、それに反対することは許されない――そんな空気が広がる中で、多様性という概念自体が形骸化し、実態のないスローガンと化しているのです。


しかし、本当に多様性を尊重するとはどういうことなのでしょうか?それは、自分が受け入れられない価値観や行動、考え方であっても、まずは理解しようと努力する姿勢ではないでしょうか。そして、その結果としてなお異なる意見を持つことを許容し、対立を超えた共存の道を模索することが、多様性の本質だと思います。


「多様性を語る偽善」に気づいたとき、それを批判するだけではなく、自分自身がどれだけ本当に多様性を受け入れているかを振り返る必要があります。他者の違いを認めることは簡単ではありませんが、それを追求することが、真の多様性を実現するための第一歩となるのです。偽善ではなく、真の理解と尊重を目指す社会へ――私たちはそのために何ができるのかを考えるべきではないでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る