蘇った記憶と対価⑰

 一目でもいいから会いたいと願った両親は、恐らくもうこの世にはいない。

 苦しいほどに胸が締めつけられ、とめどなく涙が溢れ出す。


 どうしたらいいの?本当の自分を取り戻すべきか。

 それとも、今の自分のままで生きていくべきか。


 両親のお墓はどこにあるのだろう?

 父方のお墓に納骨されているのだろうか?

 あの家はどうなったのかしら?

 親戚の誰かが、処分してしまったかもしれない。


 次々と不安が押し寄せて来る。考えるだけで恐ろしい現実に耐えられそうにない。

 養父である社長に心から御礼を言いたいが、今は顔をまともに見れない気がする。

 申し訳なさで今にも押し潰されそうで。


『失っていた記憶、思い出しました。少し整理する時間を下さい。気持ちの整理がついたら連絡します。お父さん、ごめんなさい』

 養父である菅野にメールを送信し、携帯の電源を切った。


 手の甲に刺さってる点滴を無理やり抜き、山ちゃんが用意してくれたロングカーディガンを羽織る。

 バッグから財布と携帯電話を取り出し、カーディガンのポケットに押し込む。

 そして、――――病室を抜け出した。


 既に22時を回っていることもあり、院内は思ってた以上に静かで。山ちゃんが用意してくれたルームシューズの擦れる音が妙に耳につく。


 救急外来の出入り口からこっそり外に出て、呆然と歩く。

 昼間は晴天だったのに、私の心の内を表すかのように、土砂降りの雨が降りしきる。


 ずっと何年もの間、あんなにも思い出したかったのに……。思い出した途端に思い出さない方が良かったと思うだなんて。

 そうか、思い出したくもない記憶だったから、自ら闇に葬ったのか。

 そんなことも思いもしなかった。


 このままこの世から消え去りたい。そしたら、父と母に会えるのだろうか?

 あの時、一緒に死んでいたらよかったのに……。


 とめどなく溢れ出す涙を拭うことなく、土砂降りの雨の中、湊は声を殺して、ただただ歩いていた。

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