蘇った記憶と対価⑮
静寂に包まれる室内。
加湿器の機械音が響く中、封印されていた記憶が蘇る。
途端に呼吸が浅くなる。息苦しくて胸が痛い。
夢だと思いたいのに、あまりにも鮮明すぎるその光景に消えていた過去が繋がった。
瞼を閉じても涙は止まらず、瞼の裏にまでくっきりとあの日の光景が思い浮かんだ。
思い出したくても思い出せなかった記憶。
色んな検査をして、カウンセリングまでしたのに取り戻せなかった記憶が、こんな風にして思い出すだなんて……。
**
父が大手商社のバイヤーをしていたこともあり、物心ついた時には海外を転々とする生活を送っていた。
そんなある日、母方の祖母が病いで倒れ、母親が看病する為に帰国したのが10歳の時。その当時の記憶が徐々に蘇る。
次々と断片的に蘇る記憶。けれど、それらはそんなに重要じゃない。
震えが止まらない手を必死に握りしめて、あの日の記憶を整理し始めた。
**
父親が仕事関連の知り合いを連れて帰宅したあの日。仕事のことで随分と長い時間、リビングで話し合っていた。
当時まだ13歳ということもあって、先に布団に入った私は、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめて眠りについた。
そして、突如悲鳴のような声が聞こえ、目を覚ました。
リビング脇にある私の子供部屋にドアの隙間からの一筋の明かりが差し込んでいて、それを手繰るようにドアをほんの少し開けた瞬間、視界に飛び込んで来た光景は、目を覆いたくなるような凄惨な現場だった。
――――両親が包丁のようなもので何度も刺された、一部始終だ。
東南アジア地域を統括するバイヤーだった父は仕事のトラブルで言い争い、取引関係者に刺され、その場にいた母も刺された。
言い争う会話と顔からして、その男は外国人。そして、家に火をつけ、私を連れ去った。
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