蘇った記憶と対価⑭

「ハッ……」


 暗闇の中、悲鳴のような声。

 一筋の明かりを頼りに覗いたその先に……。


「気がついた?……凄い汗」


 少し離れた場所にあるソファに腰かけていた山ちゃんが駆け寄り、私の顔を覗き込む。


「寝汗を掻いただけだから」

「本当に?どこか痛い所とかは?」

「……大丈夫」


 震える手に力をぎゅっと込めて、山ちゃんに心配掛けないようにその場をやり過ごす。

 今見えていたのは……夢?


「社長が暫く休むようにと。スケジュールを変更しておきました」

「……ありがと」

「脳の検査も異常なしだったんですが、過労なので点滴を打った方が回復が早いと。数日入院して療養することになってますから」

「……ん」


 額に滲む汗を拭いてくれる。

 そんな彼女に気付かれないように、必死に動悸を堪えて。


「今何時?」

「今ですか?えっと……21時半過ぎです」

「もうそんな時間なのね。お水ある?」

「あります!」


 慣れた手つきでペットボトルの蓋を開けて手渡す山ちゃん。湊は手渡されたミネラルウォーターを口に含み、気を落ち着かせる。

 けれど、中々動悸は治まりそうになくて。


「もう遅いから帰って休んで」

「でも……」

「過労なんでしょ?なら、休めば大丈夫だから」

「……はい」

「山ちゃんもたまにはゆっくり休んで」

「ありがとうございます。あっ、そうだ。久我検事覚えてます?」

「……ん」

「久我検事のお父様が担当医なんですよ」

「え、そうなの?……偶然でも凄いわね」

「ですよね~」


 変更になったスケジュールの一覧表をベッドテーブルの上に置き、山ちゃんは自宅へと帰って行った。


 久我検事か……。既に思い出の一部になっていた人。

 女優としてではなく、素の自分を見てくれた人。彼の名前を聞いて、一瞬動悸が治まった気がした。

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