蘇った記憶と対価⑬

 開いたドアの先にいたのは、来栖 湊のマネージャーの女性。確か、山本さんだったっけ?


「こんばんは」

「あ、こんばんは」

「ニュース観たんですけど、もしかしてこの病院に?」

「……はい」

「彼女は……大丈夫なんですか?」

「はい。処置も早かったので」

「そうですか」


 良かった。大怪我で救急搬送されたとニュースにあったから、心配になっていたのだけれど。

 話を聞くと、過労と急性のアルコール中毒だという。CMの撮影で大量にビールを飲んだのが原因らしく、転倒した際に頭部を軽く強打したらしい。


「久我さんはどうしてここに?」


 外来の診察室がある階ではないから、不思議に思うのも無理はない。


「父親がここに勤務していて、それで」

「え、そうなんですか?!」

「……はい」


 彼女に家族が医者だと話してあるが、マネージャーには話してないようだ。

 別に秘密にして欲しいと頼んだ覚えはないし、マネージャーに話した所で特に問題はないんだが、彼女は安易にぺらぺらと他者に漏らさない人のようだ。


「彼女に会えますか?」

「え?」

「あ、……ご迷惑なら無理にとは」

「う~ん、大丈夫ですが、まだ寝てるんです」

「そうなんですね。……じゃあ、一目見たら帰ります」

「……はい」


 医局に行く前に少しだけ顔を見ようと、マネージャーの後を追って病室へと。

 予想通り、特別個室に彼女はいた。


 ベッドに括られてるタグを見ると、主治医は俺の父親らしい。見慣れた名前がそこに記されていた。

 まぁ、都内でも1、2を争う大病院でVIP患者の対応となれば、当然父親になるだろうことは予測がついていた。


「まだ顔色が青白いですね」

「はい。ここ数日、殆ど睡眠もとれず、かなり無理してたので」

「担当医が父親なので、何かあれば遠慮なく仰って下さい。よく話しておきますので」

「えっ、やっぱり久我さんのお父様だったんですか?苗字が一緒なのでそうかな?とは思ったんですけれど。……有難うございます!助かります」


知り合いがいるのといないのとでは、心持ちが多少違うだろうから。

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