蘇った記憶と対価⑫
大怪我だと?酷いのだろうか?
別に親しい間柄でもないし、友人でもないし、連絡を取り合う仲でもない。
それに、最後に会ったのは2カ月前。
毎日のように街中で彼女の広告を目にしていたが、特に会いたいという感情はなかった。なのに……。
何でだろう?何がそうさせるのかは分からないが、無意識に彼女が心配になってしまう。
顔見知りだからだろうか?それとも、秘密の共有をした仲だからなのか。
気づいた時には、タブレット端末でトップニュースを検索していた。
***
19時過ぎ。
仕事を終え、久我は帰宅をしようと上着を羽織った、その時。デスクの上に置かれたスマホにメールを受信した。
『薬が切れる頃だろうから、医局に取りに来なさい』
父親からのメールだ。持病の喘息薬の心配をして、メールをして来たようだ。
昔ほどではないが、今でも時々発作が起こる。
膨大な古い資料を見る時や現場検証で訪れた場所が埃臭かったりした時に、アレルギーが原因で咳き込み、時には呼吸が苦しくなる。
だから、常に薬を常備しておかないとならなくて。仕方なく、帰りに父親が勤務する病院に寄ることにした。
***
何事?
病院に到着すると、正面玄関前に凄い人だかり。
もしかして、彼女がこの病院に?不意に脳裏に浮かぶあのニュースが。
駐車場にテレビ局の中継車が何台も停まっているところを見ると、彼女がこの病院にいるのだろう。
大物政治家が搬送されて来た時以来の報道陣の数。その報道陣を横目に院内に入る。
父親がいる医局へと向かうため、エレベーターへ乗り込む。父親が担当する脳神経外科の医局がある3階で降りた、その時。
「あっ、……久我さん?」
エレベーターの扉が開いた先にいた人物と視線が交わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます