蘇った記憶と対価⑩

「みーな、平気?……歩ける?」


 肩に大判のバスタオルが掛けられたが、その感覚すら薄っすらとしたもので。山ちゃんの声が微かに聞こえる程度。

 体中の細胞が、働くことを拒否してるようだ。


 山ちゃんに支えられながら、用意された椅子に腰かける。

 パラソルの陰にいるのにも関わらず、まだ炎天下に立ち尽くしているような感覚に襲われた。


 肩に掛けられたバスタオルを頭から被ろうと手を持ち上げた、その時。


「みーなっ!!」

「キャァァァッ」


 椅子に腰かけた状態で、椅子ごと横に倒れ、湊はそのまま意識を手放した。


***


「先生、湊は大丈夫でしょうか?」

「過労と軽い急性アルコール中毒で意識障害を起こしたようです。休息をとればじきにに回復しますが、転倒した際に頭部を強打してますので、CTやレントゲンの結果が出るまでお待ち下さい」


 撮影現場で倒れた湊は、都内の病院に搬送された。

 すぐさま処置は施され、検査も終わっている状態。

 マネージャーの山本は、特別個室のベッドの上で眠っている湊の手をぎゅっと握りしめ、目に涙を浮かべている。


 事務所社長の菅野かんのは看板女優の事故とあって、すぐさま病院に駆けつけていた。

 点滴を受けながら熟睡している湊を見据え、医師の説明を聞いている。


「外傷は無いと救急隊員の方も仰ってましたし、きっと大丈夫ですよ、社長」

「……ん、だといいが」


 ベッドサイドで心配そうに湊の髪を撫でる菅野。

 幾度となくスキャンダルが浮上しても湊への信頼は厚く、デビューする前から湊を支えている人物だ。

 それは、湊の素顔を唯一知っている人物だからというのもある。


「ここを頼む。外の対応をして来るから」

「はい」


 菅野は山本に湊を託し、病室を後にする。

 湊が救急搬送された情報を嗅ぎつけ、病院の正面玄関前に大勢の記者とカメラマンが詰め寄せていた。

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