蘇った記憶と対価⑧

 ショッピングモールでのやり取りがSNSにアップされ一時期話題になったが、サングラスをして髪色も長さも全然違うこともあって、直ぐに話題は流れた。


 それよりも、湊が広告塔になっている大手化粧品ブランドの新商品が話題となり、若い女性の必須アイテムだと巷で大ブームになっている。

 雑誌やテレビなどでも連日取り上げられ、街の至る所で自分の広告を目にする湊。


 久我検事とは何の接点もないため、あっという間に2カ月が経過していた。


***


「10分の休憩入れまーす」

「次はもう少しコクを感じた時の表情を目一杯でお願いします」

「……はい」


 都内のとある邸宅の庭で生ビールのCM撮影をしている湊。

 既に中ジョッキ5杯分くらい飲んだ状態だ。

 お酒は決して弱い方じゃないけれど、深夜まで続いた撮影の疲労感が抜けず、更に食欲もないから殆どまともな食事もとってないため、体力の限界値を超えようとしている。


 耐えないと。これ以上は飲めないとは言えない。常にベストな状態で仕事に向き合わないとならないのに……。湊は気合で必死に耐えていた。


「山ちゃん、悪いんだけど、常温のスポーツドリンクを大量に買って来て。大至急で」

「分かりました!すぐ買って来ます」


 酔い醒ましには水分補給が最適。血中のアルコール濃度を下げる効果がある。

 それプラス、アルコールを分解するのに必要な糖度もあれば尚早まるというもの。

 冷えたものより、血液の温度に近いものの方が吸収が早いため、今自分に必要なのは常温のスポーツドリンクだと、脳が弾き出したのだ。

 これまでもアルコールの撮影現場で同じようなことが何度もあった。だから、対処法を熟知している。


 山ちゃんが到着するまでの間、出来るだけ体を動かしておかないと。

 少しでも酔いを醒まして正気を保ってないと、今にも潰れてしまいそうだ。

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