蘇った記憶と対価⑦

「カラーはこのグリーンアッシュが一番マッチしてるね」

「そうね、ブルーよりグリーンの方が魅惑的で合ってるかも」


 久我検事の自宅で夕食をした翌日。再び都内のヘアサロンの一室で打ち合わせ中の湊。

 前日にスモーキーピンク色に染めた髪が見事にくすんだグリーンカラーに変身している。

 Zoomを使って監督との会議で決定したスナイパー役のヘアスタイルは、アシンメトリーボブのクールミディアムの雰囲気らしい。

 色目はグリーンアッシュ。撮影開始まで極秘になるため、来週あたりに別の色に一旦替えておき、撮影開始直前にカットするという念の入れ様。

 何度も染め直している為、傷まないように入念にトリートメントが施される。

 今日は夕方から雑誌の取材が1件入ってるだけだから、昨日ほど忙しくはない。


「終わったら起こして下さい」


 朝方までセリフ覚えのために台本と睨めっこしてたお陰で、瞼が重い。

 心地よいBGMに誘われて睡魔が襲って来たのだ。


***


 数日後。


「ゆっくりでいいから落ち着いてね」

「……はい」


 クレーン射撃がだいぶ上達したこともあり、カメラを通しても構えは合格ラインに達したらしい。

 次のミッションが『ライフル』の使い方。クレーン射撃と違い、よりリアル感が増す。

 ゲームで使用するのとは違うため、オート機能のついてないボルトアクションライフルをコーチに手渡された。

 元オリンピックメダリストのコーチに手取り足取り教わり、一連の流れを把握するだけでも四苦八苦。

 実弾でなくても怖さが湧き起こる。体にかかる衝撃が桁違いだ。

 

 何度も同じことを丁寧に説明してくれるのだが、半分くらいしか入ってこない。この恐怖と不安に打ち勝たないと、撮影どころじゃなくなってしまう。


「大丈夫だよ、真っすぐ的を見て」

「……はい」

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