蘇った記憶と対価③

 幼少期に喘息が酷く、服用した薬の副作用で太りやすかった。

 当時は肥満体形が原因でいじめに遭っていた。元々無口な性格もあって友達も少なく、辛い日々が続いていた。

 喘息による呼吸困難も苦しいのに、いじめでも辛い思いがずっと続き、何度も自殺を考えたほど。


 父親が医者なこともあり、色んな薬を試したけれど、症状が劇的に変わることはあまりなかった。

 人生まだ10年しか生きてないのに、こんなに辛いならこの先はもっと辛いんじゃないかと毎日悲観して。

 そんな心を閉ざし切った頃に彼女と出会った。


 父親が勤務する病院の非常階段から飛び降りようとした時、下から叫ぶ声が聞こえた、『ケアセンターはどこにありますか?』って。


 『何してるの?』『早まらないで!』でもなく、くりくりっとした大きな瞳が手摺りから乗り出そうとしている俺に向けられていた。


 慌てた素振りも見せず、にかっと太陽のように笑う笑顔が印象的で、飛び降りようとしていたことさえ忘れてしまうほど、一瞬で心を奪われた。


 母方の祖母が入院しているというその子をケアセンターに案内し、お礼にとチョコ味のキャラメルを貰ったのが初めて会った日の思い出。


 翌日、同じクラスに転校して来た彼女は、明るい性格から直ぐにクラスメイトと仲良くなり、孤立していた俺にさえ優しく接してくれた。

 自殺することさえ忘れさせてくれ、毎日のように声をかけてくれた天使のような子。

 名前はさかき 美雨みう

『雨』と『虹』が大好きで、いつも水玉柄の服を好んで着ていた。


 だから、彼女のことが忘れられず、願掛けのように、28歳になった今でもいつかまた会えるんじゃないかと水玉柄を身に着けている。

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