蘇った記憶と対価②

 担当した事件で、壮絶な人生を歩んでる被害者を何人も見て来た。

 仕事だから冷静な判断を下すが、実際知り合いで同じような境遇だったらと考えると心が痛む。


「探偵みたいな調査会社に頼んでみたら?」

「してます。……10年ほど前から」

「……そうか」


 そりゃそうだよな。第一線で活躍してる女優なら、それこそ俺より稼ぎはいいだろうし、1社でなく、数社に依頼しててもおかしくない。


「俺の方でも調べてみようか?」

「え?」

「知り合いに調査会社を経営している人もいるし、仕事柄、結構伝手つてはあるから」

「ホントですか?」

「あぁ」

「でも、ご迷惑じゃ?」

「俺が直接調べるわけではないから、橋渡し的なのをするだけだよ」

「あっ、……そうですよね」


 百面相のようにコロコロと表情を変える彼女。

 過去の話をする時は今にも泣きそうな顔だったのに、俺の一言でパッと明るい表情に変わり、そして今は嬉しそうに笑みを零し始めた。


 テレビの中で泣いているのならそれほど気にも留めないが、目の前で今にも泣きそうな顔見たら、放っておけないだろ。


「考えるんです」

「……何を?」

「もしかしたら、事故で亡くなってしまっていて、引き取り手がいなかったのかな?とか」

「……あぁ、ん」

「もしかしたら、何かの事件に巻き込まれて亡くなっていたり、何か事情があって生き別れたとか……」

「……」


 彼女の言葉で、心の奥がずんと軋んだ。


 15年前。突然消息が分からなくなった初恋の子がいる。彼女との出会いは更に3年ほど遡って、10歳の時、俺の通う小学校に転校して来た子がいた。

 親の仕事の関係で、マレーシアから来たという帰国子女の女の子。明るく天真爛漫で、小麦色に焼けた肌が眩しいくらいに似合っている女の子だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る