蘇った記憶と対価

蘇った記憶と対価➀

**


「何飲む?」

「何でも大丈夫です」

「アルコールでも?」

「……あ」

「フッ、冗談だよ」


 夕食を食べ終え、俺は冷蔵庫から飲み物を幾つか取り出す。


「どれがいい?」

「う~ん、じゃあ、これで」


 数本手にしている俺の手からミネラルウォーターを取った彼女。

 テーブルの上にある食べ終わった弁当の容器を片付け始めた。


「質問していい?」

「遠慮なくどうぞ」


 可燃ごみとプラスチックごみを分ける所を見ると、彼女に生活力はあるらしい。

 飛ぶ鳥を落とす勢いの人気女優だから、こういうことはハウスキーパーやマネージャーがしているのだとばかり思っていたのだが、意外にも庶民的なところもあるらしい。


「女優を目指したきっかけは?」

「…………」

「ごめん、聞いちゃまずかった?」

「あ、いえ……」


 テーブルの上を片付ける手が急に止まった。

 しかも、表情が一瞬で曇り、触れてはいけないものに触れてしまった感じがした。


「私、孤児なんです」

「……え?」

「養護施設で育ったんですけど、昔の記憶が無くて。養護施設に入る時の記憶はありますけど、それ以前が……。両親の記憶も勿論なくて、生き別れたのか、死別したのかすら分からなくて。もし消息が分かるならと淡い期待を。こういう仕事してたら、どこかで私のことを見ててくれるんじゃないかと思って」

「ごめん。……なんか傷を抉るような質問してすまない」

「いえ、大丈夫です。これが現実ですし、別に悪いことをしてる訳ではないから引け目も感じてませんし」

「偉いな」


 涙目の彼女の頭を優しく撫でる。女優を夢に頑張ってるのかと思っていた。

 そのきっかけが、オーディションなのかスカウトなのか。はたまた幼い頃から演じることが好きなのかと思ったけれど。

 予想もしない返答に俺自身の心が抉られてしまった。

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