偶然が二度目なら…⑳

「何が食べたい?」

「好き嫌いはないので、何でも」

「アレルギーもない?」

「あ、……あります。桃だけなんですけど……」

「桃?……インプット完了」

「へ?」

「来栖 湊は桃が食べれないって記憶した」

「……フフッ、久我さんって面白い人ですね」

「そう?職場の人間には『死神』って陰で呼ばれてるけど」

「え?死神ですか?」

「ん」

「裁判で負け知らずとかで?」

「いや、負けたことはあるよ」

「じゃあ、何で?」

「仕事で一切の妥協をしない主義だからかな」

「……なるほど」

「被害者の心の傷は、例え死刑判決が下ったとしても直ぐには癒えるものじゃないし。どんなに証拠を集めても、思ってた結果とは限らないしね」


 言葉の端々に真面目な人だと窺うことが出来る。きっと、納得するまで自分を追い込むタイプなんだろうな。

 垣間見えた彼の素顔が自分と重ね合う部分があって、ほんの少し親近感が湧いた。


「変な意味で取らないで欲しいんだけど」

「……はい」

「うちで食べる?」

「はい?」

「ホント、変な意味じゃなくて。外で食べたらまた撮られるんじゃないかと」

「あ~なるほど」

「仕事に支障をきたすだろうし、良ければ……の話なんだけどね」

「私は構いませんよ」

「えっ、いいの?」


 私が意外だったのか、彼は目視確認してウインカーを出し、車を路側帯に停車させた。


「会って数回の男を信用しちゃダメでしょ」


 片手をハンドルに乗せ、もう片方の手で前髪をそっと掻き上げた。

 助手席の方に少し体を向け、小首を傾げながら妖美な視線を向けて来た。

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