偶然が二度目なら…⑲
「では、何かあったら連絡下さいね」
「うん、分かった」
「検事さん、みーなのこと、宜しくお願いします」
「はい」
駐車場で合流した山ちゃんと分かれ、私は久我さんの車でその場を後にした。
顔見知りとはいえ、騒動の一件のこともあって、山ちゃんは心配で久我さんを質問攻めにしたが、彼はそれに対してとても丁寧に対応してくれた。
彼の『女性に貸しは作らない主義』という言葉に押し切られた山ちゃんは、検事のスキルでもある口頭弁論のような口調に完全にノックアウト。
隣で聞いていて、笑いが止まらなかった。
ショッピングモールを出て、国道を走行しながら彼が時折視線を向けてくる。
「どうかしましたか?」
チラチラと視線を向けられては、無意識に緊張してまう。
別に彼に好意があるとかではないけれど、車内という密室で、しかも大人の雰囲気を醸し出す美顔に見つめられたら、誰でもドキッとするだろう。
「これ、地毛なの?」
赤信号で停止した、次の瞬間。
彼の指先が私の髪にそっと触れた。
「役作りで必要になって、今日カットとカラーリングしたんです」
「へぇ~、お人形さんみたいで可愛いし、似合うね」
何もしなくても魅力的な雰囲気を醸し出してるのに、プラスアルファのセリフと思考を停止させるような仕草。
女性慣れしているのが見て取れる。
「ありがとうございます」
仕事柄、この手の口説きにもなれているが、それでも……社交辞令だと分かっていても、嬉しいものだ。
ドラマや映画のセリフでもなく、仕事関係でお世話になってる方からのお世辞でもない。
100歩譲って『来栖 湊』という女優に掛けられた言葉であったとしても、密室という空間で掛けられた彼の言葉にドキッとさせられた。
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